『マウントドレイゴ卿/パーティの前に』 完璧なメイド

小説(短編集)『マウントドレイゴ卿/パーティの前に』1923年~1947年 イギリス サマセット・モーム著 木村政則訳 光文社古典新訳文庫 2011年4月20日初版第1刷発行
2014年9月30日(火)読了

短編集。6編収録。収録作品「ジェイン」「マウントドレイゴ卿」「パーティの前に」「幸せな二人」「雨」「掘り出しもの」

「ジェイン」1923年
だいぶ前に夫を亡くした54歳の女性ジェインが、ある日突然、再婚宣言する。相手は彼女よりも27歳年下の青年。
その話を聞いたジェインの義姉は、「財産目当てが見え見え」「どうして同世代の人と結婚しないわけ?」「「不幸のどん底が待っているわよ」と散々反対したが、ジェインの決意は固く、翻意させることなどできなかった。
結婚生活を始めたジェインと青年ギルバートの運命や如何に。

コメディ・タッチで面白い。若い男と結婚したことによって、長く未亡人生活を続けてきたジェインに全く新しい世界が開けるという話の展開が意表を突く。今まであまり世間に出ようとしなかったジェインが、パーティの人気者、社交界の注目の的になってしまうのが可笑しい。
楽天的な話、として読めるのだが、女性が男によってアッサリ変貌を遂げる、というあたりにモームらしい皮肉な毒を感じる。

「マウントドレイゴ卿」1939年
精神分析医のもとにやってきた政治家マウントドレイゴ卿は、自分が夢に悩まされていることを告白する。
その夢の中で彼は、日頃から軽蔑している議員グリフィスの前で醜態を晒している、それが毎回なのだ。それが耐えられないと言う。そのうえ、どうやらグリフィスも同じ夢を見ている節がある、と。
マウントドレイゴ卿が、夢の中でビール瓶でグリフィスの頭を殴ると、翌日、グリフィスは頭痛を訴えている。夢の中での出来事が現実になるのか。

夢を題材にした話は、たくさんあるので、これが飛び抜けてユニークとは言い難いが、モームもこういう小説を書いているのかと非常に興味深かった。
精神分析医は、夢を理性的に合理的に解釈しようとするだが、ある不可思議な現象が彼を戸惑わせる。偶然なのか、超常現象か。そこをきちんと答えを出していないのもいかにもこの手の作品の常套だが、上手い。

「パーティの前に」1926年
ある家族が、大事なパーティに出席しようと支度していた時、長女がある告白を始める。それは、実に恐るべき内容であった。

「えっ、そこで終わるのか。」
と思ってしまった。普通だとその先に起きるさまざまな修羅場を描こうとするのだが、モームはここで終わらせる。そこが心憎いまでに上手い。
パーティの前にこんなとんでもないことを聞かされた家族は、これからパーティに出て、どう平常心を保てるのだろうか。そして、パーティのあともずっと秘密を抱え込んで生きていかなければならない。この家族にそれは無理なんじゃないか、という気がする。そんな風に小説が終った後のことまで考えをめぐらせてしまう。これは実に面白い作品。

「幸せな二人」1947年
殺人を犯した疑いが濃厚な男女二人のカップル。だが、裁判では無罪を勝ち取ることができた。陪審員は、なぜ無罪評決を出したのか。

「人間というのは、いかにも不可解なものですねえ」
という登場人物のセリフがモームの云わんとするところか。殺人という大罪は犯すことができても、もう一つの罪を犯すことはできなかった。それが結果的に二人を死刑から回避させた。なんという皮肉。
それにしても、裁判のために医師が●●と診断することなんてあるのかねえ。

「雨」1921年
モームの短編の中でもとりわけ有名な作品。勿論、傑作だとは思うけれど、宣教師と娼婦という組み合わせがいかにもあざとい感じがする。キリスト教の信者が読めばショッキングだろうが、生憎ぼくはそうじゃないので、いまひとつ感銘が薄い。
ただ、これも技巧的には実に上手い。二人の間に何が起きたか、具体的に書いてはいないが、
「男ってやつは!汚らわしい豚!どいつもこいつも、みんな同じさ。豚!豚!」
という激烈なセリフで分からせてしまうのは神技。

「掘り出しもの」1934年
新しく雇ったメイドは、すべての仕事を難なくこなすまさに完璧なメイドだった。

これも終わり方が上手い。もっと修羅場があるんじゃないの、とこれも思ったが、スッパリと終っているのはむしろ見事。完璧なメイドは、仕事以外の点でも完璧だった、というオチが面白い。

というわけで全編について簡単に感想を書いてみた。つまらない、ハズレというものがなく、6編全部面白いというのは珍しい。ぼくとモームの相性はいいかもしれない。これからもモームを読もう。
マウントドレイゴ卿/パーティの前に (光文社古典新訳文庫)
光文社
2011-04-12
ウィリアム・サマセット モーム

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