「ゲド戦記Ⅳ 帰還」 魔法を失うということ

小説「ゲド戦記Ⅳ 帰還」1990年 アメリカ アーシュラ・K.ル=グウィン著 清水真砂子訳 岩波書店ソフトカバー版 2006年5月10日第1刷発行 2006年6月26日第4刷発行
2014年1月12日(日)読了

Ⅱ巻の大巫女の少女テナーが再登場。もっとも25年のときが流れ、もはや中年の女性になっている。ゲドによって助け出され、魔法使いオジオンの教えを受けた後、テナーは普通の人間の妻となり、やがて二人の子供の母となった。そして、夫も亡くなり、子どもたちも独立して再び一人になった。
そんなテナーが、ある日、関わりを持ったのは、生きながら火に投げ込まれ、瀕死の状態になった一人の女の子だった。命は助かったが、半身にひどいやけどが残り、心にも深い傷を負ったその子をテルーと名付け育てることを決意するテナー。
こんな始まり方をする物語。テナーが主人公と言っていいだろう。やがてオジオンが死に、その数日後にゲドが、半死半生の状態でテナーの前に現れるというストーリーになる。
Ⅲ巻のラストで魔法の力を失ったゲドは、もうその力をとり戻すこともできず、肉体的にも精神的にも痛手をうけたままである。そして体の傷が癒えたころ、ゲドはテナーのもとを去っていく。そして、物語の後半まで彼は出てこない。

これまでの巻のなかでも最も暗く陰鬱で絶望的な物語。派手なアクション・シーンはほとんどなく、テナーとテルーの生活を描くのが中心。障碍者である他人の子どもを育てるという設定は、この前読んだアゴタ・クリストフの「ふたりの証拠」を思い出す。あちらは、男が男の子を育てていくのだったが。

読んでいるうちにさまざまな葛藤を抱き、悩み苦しむテナーに感情移入してしまう。その辺の惹きつける力はさすがと言うしかない。いろいろ苦労もあるが、やっと平穏な生活を送れたと思った矢先にテナーとテルーの前に現れる黒い影。必死に抵抗し戦うテナーが感動的。
そのあとでⅢ巻で登場したアレンが国王となって再登場、テナーとテルーを助けるという展開。

後半部にゲドが戻ってくるくだりからはまた一味違ってくる。完全に魔法を失ったゲドがどうやってこれから先の人生を生きていくのか、というこれまた重い展開。そしてゲドとテナーとテルーの三人暮らしが始まる。その過程でどうやらゲドとテナーはセックスしたようだ。というか、ゲドはそれまで童貞だったのではないかと推測される。禁欲的な魔法使いだったからやむを得ないか。
前の方でゲドが食事した後で自分の皿を洗うシーンがある。そこがことさら強調されているのが印象的。女性に縁のなかったゲドは、自分で自分の始末をすることを体得していたというわけ。この皿洗いは、後半で別の人物を使ってまた取り上げられる。そこが興味深い。

クライマックスからラストに向かっての展開も面白い。テルーという少女の持つ意味がここで明かされる。もっとも弱きものこそ、実はもっとも強い力を秘めたものであるというメッセージとして受け止めた。この暗く陰鬱で絶望的な物語をそのままで終わらせずにラストを希望で締めたところが感動的。

今までの巻とは、趣きが違うが、これも傑作である。
ゲド戦記 4 帰還 (ソフトカバー版)
岩波書店
アーシュラ・K. ル・グウィン

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