「アメリカが見つかりましたか ━戦前篇」 めりけん・じゃっぷはここにいる

評論「アメリカが見つかりましたか ━戦前篇」1998年 阿川尚之(あがわ なおゆき)著 都市出版 1998年11月10日初版発行 2012年11月10日(土)購入 BOOK・OFFパサージオ西新井店 価格105円
2012年11月11日(日)読了

幕末・明治・大正期に太平洋を渡った11人の日本人
「余は終始一異邦人であった」と嘆息した基督教徒も
「宜しく米国へ行け」と高らかに謳った社会主義者も
「俺たちはやはり日本人」と涙ぐんだめりけん・じゃっぷも
アメリカで見つけたのは、自分自身であり、日本であった。(帯より)

とても面白く読んだ。
この本で取り上げられている11人の日本人は、
ジョン・万次郎 
ジョセフ・ヒコ
福沢諭吉
新島襄
津田梅子
内村鑑三
片山潜
新渡戸稲造
朝河貫一
有島武郎
谷譲次
というメンバーでそのほとんどが偉人伝に出てくるような功成り名を遂げた人物ばかりでなかなか壮観である。それらの人々のアメリカ体験からその人物像と同時にその時代の日本の姿が浮かび上がってくるという非常に巧妙に書かれた本である。
全250ページのなかで11人を取り上げるのだから、一人平均して20ページ余の分量しかないのだが、極めて手際よくわかりやすくまとめられていて楽しく読める。もっと詳しく知りたい人は、個々の人物の評伝や当人の書いたものを読む必要がある。あくまでこれは基本的な本ということである。
著者の阿川尚之は、

「取り上げた人物は限られているが、本書は戦前の日本人によるアメリカ体験の系統的な研究ではない。あくまでも私が魅力を感じる留学生や渡航者のスケッチのつもりである。なるべく個人の目で見たアメリカを描きたいと思って、外交官、駐在武官など、日本国を背負ってアメリカで働いた人は、意識的に避けた。」(246ページ)

と書いている。この姿勢には好感が持てる。
職業人ではなく、まだ何者にもなっていない10代から20代の若者たちがアメリカという新天地に向かう青春物語としても読めて感銘を受ける。津田梅子なんかは10代どころかわずか7歳で親と離れてアメリカ留学するのだから突拍子もない話である。

11人それぞれがきわめて個性的である。ジョン・万次郎やジョセフ・ヒコのように乗っていた船が漂流してアメリカ人に助けられてアメリカにたどり着いた者もいれば、勉学のため、信仰のため、あるいは働くためにアメリカに行く者もいる。そして、アメリカの素晴らしさに魅了される者もいれば、反対にアメリカに批判的になる者もいる。アメリカ人の親切に恩義を感じる者、アメリカ人の差別意識に直面する者もいる。そんなもろもろがとにかく読んでいて大変興味深く面白かった。

これを読んで一番強く思うのは、幕末から明治にかけて日本人がいかに進取の気性に富んだ国民だということである。それまで、ちょん髷を結って刀を差していた人々が、維新で一気に頭を切り替えて、アメリカに学ぼうとするのが何とも素晴らしい。どうしても日本人は内向きと批判されがちなのだが、この時代にはこういう人々がいたのである。もちろん、これは当時でも先鋭的で特別な人間の話であり、日本人すべてに当てはまるわけではないが、それでも誇りに思っていいだろう。
この人々も若かったが、日本という国も若かったのだ。

ただ、最初からずっと読んでいるとここに出てくる人は努力家で真面目で偉大な人ばかりなのでいささか気圧されてしまう。もちろん、挫折も描かれているのだが、そちらはさほど目立たない。強いていえば、片山潜という人がなかなか複雑で屈折しているのが目を惹く。若いころはアメリカに理想を抱き、アメリカで働くも上手くいかず、紆余曲折を経て後半生ではソ連を理想の国として生きるという生き方。これも日本人の一つの典型だ。でも、この人も結局生真面目な人である。

そんななかで11人の一番ラストに谷譲次を持ってきたのがこの本の構成の妙である。他の10人と明らかに違って異彩を放っている。他の人がとにかく真面目なのにこちらは、軽妙洒脱でかなり俗っぽい。ここで引用されている「めりけん・じゃっぷ」物の文章を読むとそれがよくわかる。
深刻なことを笑いのめす才能に溢れすぎていていささか軽薄だが、それでもなかなか的を射ている。こういう人もいたということは嬉しく思う。
ぼくも昔、谷譲次の別名義である牧逸馬の犯罪実話を愛読した時期があったのでなおさら阿川尚之が取り上げてくれたことに感謝したい。

ちなみにこの「アメリカを見つけましたか」は戦後篇もあるようなのでそちらも探して読んでみたい。

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