「日米秘密情報機関 「影の軍隊」ムサシ機関長の告白」 喧嘩の平城

ノンフィクション(戦争・軍隊・自衛隊)「日米秘密情報機関 「影の軍隊」ムサシ機関長の告白」2010年 平城弘通著 講談社 2010年9月17日第1刷発行
2012年5月26日(土)読了

タイトルが面白そうなので買ってみた。
でもタイトルの「日米秘密情報機関」についての文章は「第八章 ムサシ機関長」の部分だけで40ページほどしかない。全体で320ページ弱の本なので約八分の一。内容的には、この情報機関の成り立ちや組織編制に始まって活動の様子に至るまでコンパクトにまとまられていて資料的には価値があるものと思われるが、肝心の活動の様子は具体的事例が挙げられていないので隔靴掻痒の感が否めない。
ではこれはダメな本なのか言えばさにあらず、近頃こんなに面白い本を読んだことがなかった。傑作である。

何が面白いのか、と言えば一にも二にも著者である平城弘通(ひらじょう ひろみち)という人物に起因する。自ら波乱万丈の人生と称するのも頷けるドラマティックな人生に加えて強烈極まる性格の持ち主なのでこの自伝的書物が面白くならないはずがない。

平城弘通 大正9年(1920年)生まれ。昭和16年(1941年)、陸軍士官学校を卒業し、陸軍将校として中国大陸を転戦。昭和18年(1943年)、少年戦車兵学校区隊長となり、終戦を迎える。戦後、民間の仕事に従事するも、昭和26年(1951年)警察予備隊に入隊。以後、保安隊、自衛隊と名を変えていく組織でさまざまな経験を積んでいく。昭和48年(1973年)、陸将補で自衛隊を退職。

旧日本陸軍から始まって警察予備隊を経て自衛隊までを生きてきた、まさに生き証人である。面白い話が山ほど詰まっている。
強く逞しく知恵のある人物だが、同時に「喧嘩の平城」という異名をとるだけあってかなり問題児のようなところもある。敵に回すと怖いが、味方になると揉め事を起こす厄介な人物で、しかも自らの正しさを信じているから微塵も揺るぎがない。人の好悪が激しく結構根に持つタイプで上下関係は重んじるが、お歳暮やお中元でご機嫌とるような輩は唾棄している。近くにはよりたくないが、遠くから眺めているには非常に興味深い。映画にしてほしいくらいだが、どうも戦争映画の主役というと、軍人では山本五十六クラスでないと製作されないし、逆に民間人は徴兵された被害者として登場するのが常で、こういうクラスの一癖ある人物はまず映画化されない。

作家の阿川弘之が中学時代の同級生。結構ひどいことが書かれていて笑った。
同期生会に阿川が参加したとき、まったくの部外者である文春の編集者とカメラマンを連れてきたとして、著者は「見るだけで反吐が出そうな不愉快な思いであった」(32ページ)と書く。以前、著者が阿川に軍事に関する論文を渡したのに一向に返事もなく無視されたことへの怒りも伏線なのだろう。この本が出版されたとき、著者は90歳なのにここまで他人への怒りを素直に出せるというのは大したことである。好々爺とか枯淡の境地とかとは全く無縁なところが素晴らしい。

やり玉にあがるのは阿川だけではない。中国大陸を転戦中に中隊長から無茶で無意味な軍事行動を命じられた時のことをこう記している。

「こんな指揮を実施すれば、多くの小隊長が死んで行ったのも当然だと感じた。「歴戦の中隊長でも、こんな下手クソな指揮をするのか。自分は今後注意して、部下を無駄死にさせるようなことはしないぞ」と、自戒したものだ。」(68ページ)

本文ではこの中隊長の実名をばっちり出している。
著者は、生粋の軍人ではあるが、決して全面的に軍隊を賛美しているわけではない。上記のような批判もいくつも見られる。陸軍内部のみならず大本営批判も手厳しい。でももちろん、反戦でも反軍でもない。その逆でよりすぐれた軍隊であってほしいという強い気持ちがうかがえる。その辺が左翼とはまるで違うところであり、また単純に軍隊を賛美する手合いとも違うところである。
軍隊でいわゆる「初年兵いじめ」があることを承知していた著者は、少年戦車兵学校の教官として生徒たちに「初年兵いじめ」に対抗すべき心構えを叩き込んでいたという。軍隊にいじめなんてない、と否定せず、いじめへの対抗策を考えるという極めて現実的な方法をとったということはすごいことである。

大本営発表に疑念を抱いていた著者は、少年戦車兵学校の戦車に取り付けられていた無線機でひそかに米軍放送を傍受していた。これはバレれば軍法会議で刑務所に入れられる行為だという。真面目な右翼の人が読んだら腹立つような内容だ。

中国大陸転戦中に捕まえた敵軍人20名を建物に収容した際に指示ミスがあり、翌朝には20名全員が窒息死した。「後手に縛られて、足が地につく程度に天井の桁から吊り下げられたため、呼吸困難で」(69ページ)だそうである。これは著者もいうように戦犯ものの行為だがそのまま死体を埋めてしまったので誰にも知られず誰も戦犯にならなかった。これも真面目な左翼の人が読んだら腹立てるようなこと。

戦争とはまるで関係ないが、戦後に運送業をしていたころ、列車往来妨害罪で罰金をくらって、前科者になっている。なんでわざわざこんな不名誉なこと書くのだろう。誰も聞いていないのに。しかも別に罪を悔いている風でもなく、自虐的でもなく、むしろ自慢しているような感じ。本当に不思議な人だ。

戦後、発足した警察予備隊に参加するくだりも実に面白い。このとき、著者は31歳。この年齢で旧軍以来の軍事教練を受けたというのがまさに痛快である。
警察予備隊は米軍式なので旧軍と比較が興味深い。たとえば、匍匐前進訓練の際に米軍式では、訓練生の頭上に機関銃の実弾を浴びせるのだという。たとえ訓練だろうと実戦さながらの状況を作り出し、慣れさせる狙いがある。翻って旧軍では、経費削減のためかこの手の実弾訓練はやったことがない、と著者はいう。

「旧軍では、補充兵が来ても戦場でまた実戦教育をし直さなければならなかったが、米軍は実戦的な状況下で訓練するので、補充兵は短期間でどんどん戦場に出せるわけだと合点した。」(113ページ)

こういうところがアメリカの強さの理由なのか。

自衛隊時代、戦車大隊長になったとき、各組織から疎まれる問題児ばかりで幕僚を構成したというのもロバート・アルドリッチや岡本喜八の映画みたいでこれまた痛快。

旧軍に対しても厳しい目を向ける著者は当然ながら自衛隊にも厳しい。例えば、昭和37年(1962年)に起きたキューバ危機に関しても、

「自衛隊はこういう危機的な状況でも、昔の戦時のような危機意識はなかった。末端には非常待機もない。米軍に守られているという意識があるものだから米軍のほうからなにかいってこないと、警戒態勢も取らないのである。」(166ページ)

と厳しい。なるほどいいこと言う、と思うが、これは当時現役自衛官である著者にも当然ながら言えることであろう。組織の中で俺だけが危機意識があり、俺だけが正しい、と言っても通らない。こういうところは非常に面倒な人である。

「70年安保」に際して自衛隊が治安発動に備えていた、という話も面白い。
左翼過激派の行動がエスカレートし、内乱状態になり、警察権力ではそれに対処できないという事態になったとき、自衛隊が治安発動し、事態を収める。

「これは、戦後占領政策の是正、民主主義を基調とする独立国としての再生、すなわち、「維新」ともいうべき国家の革新を図るものだ。
以上のようなことは、私の夢物語であったかもしれない。」(249ページ)

治安発動して、一気に憲法改正まで持っていくつもりだったのか、まさに著者のいうように夢物語。しかもその夢が左翼過激派頼みというのがなんとも。でも面白い。自衛隊の一部にしろ、左翼の活躍に期待していたというのが実に皮肉な話。そこまで言うなら、クーデター起こせばよかったのに。
もし著者のいうような夢が実現していたら、どんな日本になったか想像してみるのも一興である。

著者は、あとがきで「日本全土の核シェルター構築の大公共土木工事」(317ページ)を提唱している。あのストレンジラブ博士ばりの構想だが、これまた夢物語で終わりそうである。

全ページ、一字一句退屈するところなく、面白く勉強になる素晴らしい本であった。



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