「私のパパ ウォルト・ディズニー」 お金の話、そのほかの話

評伝「私のパパ ウォルト・ディズニー」THE STORY OF WALT DISNEY 1957年・2005年 アメリカ ダイアン・ディズニー・ミラー著 ピート・マーティン文 上杉隼人訳 講談社 2010年11月30日第1刷発行 2011年9月20日第2刷発行
2012年4月30日(月)読了

この本は実に不思議な本である。
BOOK・OFFの児童書の棚で見つけてつい買ってしまったのであるが、読んでビックリ、事前に想像していたのとはまるで違う本であった。
タイトルが、「私のパパ ウォルト・ディズニー」であり、本の表紙にはウォルト・ディズニー本人とその幼い二人の娘の写真があり、ダイアン・ディズニー・ミラーという著者名らしきものもある。これはてっきり、娘が父親のことを書いた本で他には見られないディズニーのプライベートの様子が伺えるか、と思ったが、まったく当てが外れた。
そもそも、著者という風に本の奥付けには書いてはあるが、じつはこれは娘ダイアンが書いた本ではないのである。そのことは、冒頭の「本書について」においてダイアン自身がはっきりと明言している。(2005年の復刊時に書かれたもの)

「本書は、父ウォルト・ディズニーへの膨大なインタビュー・テープをもとに、ピート・マーティン氏が書き上げたわたしの父の物語です。インタビューにはわたしも同席しましたので、テープにはわたしの若い頃の少女のような甲高い声も録音されています。」(2ページ)

同席しただけか! さらに、

「父のインタビューを収録したテープはまさに貴重品ですが、本書もウォルト・ディズニーの最初の伝記の一つであり、自伝に近い形で残されたものですので、たいへん重要であるといえます。」(3ページ)

とある。そんな「貴重品」で「重要」な本が、どういうわけかダイアンの一人称の文体による「伝記」になってしまっているのだ。なぜ、ピーター・マーティンによる「伝記」、もしくはウォルト・ディズニーによる「自伝」という体裁にしなかったのだろう。その答えは、「本書について」にもほかのどこにも書いていない。
さらに肝心のダイアンが書いてもいない(ピート・マーティンがなりすまして書いた)文章が、これが実に甘ったるくてどうにも歯ごたえがない。児童書としての配慮だろうが、文章の「です」「ます」調も「お父さん」「お母さん」といった呼称も大人が読むには実にこそばゆい。
では、子供が読んで楽しめるかといえばこれがまた疑問である。文章はともかくとして本の中身があまり子供向けとは言い難いのだ。
「あのディズニー・ランドの生みの親について書いた本だからきっと夢のある楽しい本に違いない。」
という期待をあっさり裏切るようなものなのである。
結構、生々しいのである。
アニメ制作というものが、いかに大変なものであり、いかにお金がかかるものであるのか、を具体的な数字を出してくるのは、まさに夢も希望もない、という感じ。
「白雪姫」は140万ドル、「バンビ」は170万ドル、「ファンタジア」は210万ドル、「ピノキオ」は260万ドルの製作費がかかったとか、まあ、一般の子供たちにはどうでもいいようなことが事細かに書かれている。どれが、ヒットしてどれがこけたとか、しまいには、いかにディズニーの経営が苦しくて一時は銀行の管理下に置かれるという事態であったことまで、書いてある。この前読んだ「闇の王子ディズニー」という本でもディズニーの経営状態の悪さは描かれていたが、あの本はディズニーに取材拒否されて作られたものなのでこれほど具体的な数字は出てこなかった。こちらのほうは、いわばディズニーの公認のお墨付きだろうが、それなのにこれほど身内の苦境を暴露してみせるのは驚きである。
お金にまつわる話は、この本ではたびたび出てくるが、それ以外のストライキの話や戦時中に軍にスタジオを占拠された話などの暗い話も出てくる。ディズニー本人についても、精神的な病のことや学歴がなく、教養もないことなどが書かれている。正直すぎるというか、もっと美化してもいいのではないかと気の毒になる。
しかもこれ、ディズニーが存命中の1957年に最初の出版がなされているのである(この本のインタビューが行われたのは、1956年夏)。
ちなみにディズニーが亡くなったのは1966年11月。

最初に書いたようにこれは不思議な本であるが、稀にみる珍品であることは確かだ。娘ダイアンの文体にするという変な工作がこの本を胡散臭くみせているが、それでも、アニメ制作の裏側をある程度赤裸々に見せてくれている点では評価しておきたい。



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