「困ってるひと」 難病女子、絶賛生存中!

エッセイ「困ってるひと」2011年 大野更紗著 ポプラ社 2011年6月20日第1刷発行 2011年9月7日第10刷
2012年5月6日(日)読了

「絶賛生存中!」
ある日、原因不明の難病を発症した、大学院女子の冒険、恋、闘いの、命がけの記録。(帯より)

傑作。
とにかく面白く読みだしたらやめられない本である。ジャンル分けすれば、「闘病記」になるのだろうが、従来のものにはない極めてユニークな「闘病記」になっている。
読み始めは、著者の文体がいかにも軽薄そうでやたらはしゃいだ感じがして、ちょっととっつきにくいきらいもあるのだが、読み進めていくとそんなことはまったく気にならなくなってしまい、この文体が内容にふさわしいようにも思えてくる。「闘病記」につきもののような暗くて、陰湿で、感傷過多な文体とは真逆である。
だからと言ってこの本が、前向きで明るい「闘病記」であるかといえば、違うのである。文体こそはしゃいだようではあるが、内容は極めて真摯で厳しいものである。著者が発病した難病は、明るく装うことをしないと、とうてい耐えられないような一筋縄でいかない病気だ。これをシリアスに描写したら、まず読者は引いてしまう。その辺を見越してあえてこういう形にして一人でも多くの人に読んでもらうことにしたのだろう。著者は、頭脳明晰で非常に感受性が強い女性と見受けられる。そして、人に読ませることに自覚的なすぐれた作家的才能の持ち主だ。読みだしたらやめられない本を書くというのは誰にもできるものではない。特異な体験をそのまんま書けばいい、というものではない。

発病から一年間の検査期間がないと入院すら決まらないという実に厄介な難病(自己免疫疾患系)というのが実に恐ろしいが、入院してからの日々も多難で厄介なことの連続というのがよく伝わってくる。
もちろん、これほどの難病の人に対しておいそれと「共感」したり、「同情」したりすることはできない。所詮は他人事なのである。同じ気持ちにはならないし、ましては病気を替わってあげることはできない。それでも、「理解」しようとし、ささやかながら、エールを送ることくらいはやってみたい。
そんなことを思うのは、私にも二か月間の入院生活があり、短いながらも闘病したからだ。二か月間、体の自由を奪われる辛さを味わって、つくづく病の恐ろしさ、健康のありがたさを痛感した。
著者の場合、それがこれから先もずっと続くかもしれないというのだから、想像を絶する苦難である。それには私なんかが何か言うのも躊躇してしまうが、それでも、生きて、生き抜いてほしい、と切に思う。

著者のまなざしは、実に冷厳に物事をとらえていて、時に鋭く対象に注がれている。
主治医をはじめとして、お世話になった病院関係者には感謝しつつも、彼らの社会性のなさについては批判する、という姿勢がすごい。治療には素晴らしい技量を発揮しても患者のプライベートを思いやることのなさにも手厳しい。
さらに難病や障害といったものに対するさまざまな「制度」の問題にも矛盾を指摘する。だからと言って、それが左翼的になることはない。あくまでも、「制度」が生きる上での命綱だから真剣にならざるを得ないということである。こういう著者の態度がじつに潔い。

この本で一番泣かされるのは、やはり「あの人」とのかかわりを描いたところ。著者らしく少し茶化したような文ではあるのだが、いやそれだからこそ、著者と「あの人」の純粋な気持ちが伝わってきて泣けるのだ。二人の絆の深さに感動するのだ。決してお涙頂戴ではないのに涙が止まらない。実にすばらしい。

この本のなかには、著者の熱い魂がある。

「難ばかりの今日も。
今日も、みんなが、絶賛生存中。」(313ページ あとがきより)

(追記)この本を読んだ後で、著者・大野更紗のブログやツイッター、あるいはそれ以外のネット上の発言とかをいろいろと探して読んでみた。それらからはこの本の文章から受ける印象とはとはまるで違うものを感じた。あくまでもこの本は一つの作品として作ってあって、いかにも軽薄ではしゃいだような文章は意図的な演出だというのがよくわかる。真面目な文章も書けるし、くだけた調子の文章も書ける。「言葉の魔術師」というべきか。
この素晴らしい文学的才能を生かして更なる傑作が生みだされることを大いに期待したい。それと、この本が映画化されることも期待しておきたい。(2012年5月13日 記)
困ってるひと
ポプラ社
大野 更紗

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