「それからの海」 死んだ人ってすごい

テレビドラマ「それからの海」原案:吉村昭 脚本:櫻井剛 演出:高橋陽一郎 出演:岩手県田野畑村の皆さん 橋本麻由 一青窈 
2012年3月3日(土)19時30分~20時45分放送・鑑賞 NHK総合テレビ

東日本大震災から間もなく一年。現地の復興とともにそろそろ蠢きだしている人々がいる。被災地・被災者を格好の素材としてテレビドラマや映画にしようと目論む人々である。
テレビドラマに限っていえば、私の観た範囲でもこれまでにも既に「中学生日記」や「十一人もいる!」、「キルトの家」などで多少なりとも触れられてきたのだが、これからもっと正面切って描くようなものが出現するように思える。
まずは、この「それからの海」などはその先駆けだろう。

「土曜ドラマスペシャル」と銘打っているので当然ながらドラマではあるのだが、ドキュメンタリーと見まがうような手法を使って観る者を眩惑する。
冒頭、少女が自分の手持ちカメラの目線でかつて自分の家があり津波で流された場所を写し、さらに今住んでいる仮設住宅の中に入り、いきなり仏壇を写し、「お母さんです」と言う。観ている方もぐっと胸を打たれる。
ところが、ドラマのラストで明かされるが、少女は橋本麻由というオーディションで選ばれた「女優」であり、ドラマの役を演じていたにすぎなかった。なかなか面白い趣向だ、と普通なら思うところだが、実際の被災地・被災者が存在しているのにこのやり方というのはいささかあざとく感じる。
岩手県田野畑村の皆さんの協力のもとにこのドラマは制作された、という旨のテロップが出るが、この少女を始めとしてどの辺が作りものなのか、誰が何の役を演じているのか、俳優なのか素人なのかさっぱりわからない。
では虚実の判別にこだわらずに単純にドラマとして面白いかと言えば端的に言ってつまらない。ドラマ的には実に虚弱でまことに心もとない。
東京から被災地を訪れた女性とその子供という存在をドラマに挿入して、「外部」の代表としているのだが、どうにもこの母子が謎の存在レベルだ。やたら駅名を暗誦して歩く子供ややけにフランクに被災地の人と喋るが自分の変な思いを抱えている母親というのはキャラとしては面白いが、ドラマにはまったくかみ合っていない。彼らが被災者に何らかの影響を与えたり与えられたりといったドラマ的な展開もまるでない。
せっかく、その母親役に一青窈をキャスティングしているのだから、被災地で「ハナミズキ」を朗々と歌うくらいやってほしかった。どうせあざといのならそこまでハッタリかます傲慢さを出してもいい。

結局、これはドキュメンタリーをやりたいのでもなくドラマをやりたいのでもないのだろう。被災地を舞台にした「映像詩」みたいなのを撮りたかったように思えてならない。なんとなく「芸術」っぽいような、「高尚」なような、「考えさせられる」ようなもの。
調べてみるとこのドラマの高橋陽一郎という演出家は過去の作品が海外で受賞歴があったりしてなかなか評価が高いようだ。NHKでいえば、昔の佐々木昭一郎のような存在か。映像にこだわっているところにいくばくかの共通点がありそうな気がする。

ハッキリ言って今回は大失敗(高橋陽一郎は失敗とは思っていないだろうが)に終わったわけだが、こういう変なものを生み出す高橋陽一郎に対しては俄然興味が湧いてきた。彼の作品をもっと観てみたい。

それにしても、あの仏壇も本物ではないのか、偽の小道具なのか。

かざぐるま
コロムビアミュージックエンタテインメント
2005-09-21
一青窈

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