「「ならずもの国家」異論」 国家=幻想の共同体

評論「「ならずもの国家」異論」2004年 吉本隆明著 光文社 2004年1月30日初版第1刷発行
2012年3月17日(土)読了

吉本隆明(よしもとたかあき)氏。2012年3月16日死去。享年八十七。

吉本隆明の本はほとんど読んだことがない。というか正確に言うと、買ってきちんと読んだのは「「反核」異論」という本だけである。この本は面白かったが、続けて他の本を読む気は起こらなかった。今回、死去の報に接して一冊読んでみることにした。以前買ったまま読んでいなかった「「ならずもの国家」異論」である。

タイトルからして「「反核」異論」を意識したと思しきものだが、こちらの方がざっくばらんで分かりやすく読みやすい。その分、極めて刺激的でもあった「「反核」異論」よりもいささかおとなしめ、のようにも思える。文体もこちらは「語り」の文体なのであるいは吉本隆明が書いたのではなく、語ったことをまとめたのか。そのへんはどうもハッキリしない。
この本で面白いのは、吉本隆明の「ものの見方」である。もはや右でも左でもなく自由に自分の考えを表明しているところが面白い。もちろん、当たり前すぎるくらい当たり前のことを言っているな、といささか鼻白むところもあるのだが、その辺もひっくるめて面白いと言うべきだろう。

この本は2004年1月の発行であり、内容は当時の世界をにぎわせていた時事ネタを取り上げて、それに対する見解を表明してさらに深く広く考えていくものである。
2002年9月の小泉訪朝で明らかになった拉致問題について考え、さらに北朝鮮および金正日について考える。
2003年3月に始まったアメリカによるイラク戦争について考え、さらにアメリカについて考える。
そして、それらに対する日本政府の反応について考え、国民について考える。
その考えがすべて納得できるものではない。また、吉本隆明自身も考えが及ばないとか分からないと認めていることもある。何でもかんでも分かってしまうという人々に比べるとその辺が真摯で誠実であると思う。

面白かったところをいくつか抜き出してみる。

拉致問題について。
「小泉さんや政府が黙っていても、社会党や共産党をはじめとする野党が先頭を切って真正面から、おれたちが話をつけてくるといい出すべき問題でした。そうなっていたらたいしたものだといえたわけですが、じっさいはまったく逆です。社民党でも共産党でも、この問題になるとシュンとしてしまう。」(39ページ)
金正日について。
「あの人は「生き神様」になりたいのだとおもいます。そしてそれを世襲させたいとおもっているはずだと見ています。世襲制の生き神様です。」(44ページ)
アメリカについて。
「アメリカという国はどんな強硬なことでも、人道に反することでも、やりたいことはやる国です。それは太平洋戦争中のことを振り返ってみればわかります。」(68ページ)
「もうひとつ、アメリカの特徴を挙げておきます。日本国との戦争の場合、アメリカは日本を相当に研究していました。アメリカは敵を徹底的に解剖します。」(197ページ)
「ところがアフガニスタンやイラクとの戦争を見ていると、かつての日本に対するような研究をしているフシがあまり窺えません。」(199ページ)
国家と個人について。
「政治家たちは、万が一戦争になって日本列島が戦場になった場合、じぶんたちの指導の下で国民を動かすつもりでいるようですが、そんなのは冗談じゃない、一般民衆はそんなものにはしたがいません。憲法にしたがわなければいけないのは政府と自衛隊と官僚たちであって、国民一般は要するに個人でもあるわけですから、したがうまいとおもったらしたがわなくてもかまわないわけです。」(204ページ)
「戦中から戦後にかけてぼくが学んだことは、戦争になった場合、逃げようが戦おうが、その判断をするのは個人あるいはその家族だということです。個人およびその家族がいちばんいいとおもったことをすればいいのです。」(204ページ)

この中では特に国家と個人というものに対する考え方に感銘を受けた。
国家については、
「では、国家とは何か。幻想の共同体です。」(205ページ)
とも書いている。なにか凄く刺激的である。もっと吉本隆明の本を読んでみたい。
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光文社
吉本 隆明

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