「無邪気と悪魔は紙一重」 痴人の愛のその後

エッセイ「無邪気と悪魔は紙一重」2002年 青柳いづみこ著 白水社 2002年4月25日発行 2012年3月1日(木)読了

太宰治が最後に私の家━正確にいうと、中央線沿線の文士がつどう阿佐ヶ谷会に会場を提供していた亡祖父青柳瑞穂の家だが━に来たのは、祖母が青酸カリを飲んで死んだ通夜の日だった。これも正確にいうと、門の前まで来たが、どうしてもなかにはいれなくてひきかえしたという。駅には山崎富栄を待たせていた。心中は、その二か月後である。当時私はまだ生まれていなかったから、これはもちろん、母からきいたことである。(7ページ)

本を買う時、迷ったらまずその本の冒頭の文章を読んでみることにしている。そこでこちらのハートにグッとくるものがあれば、即買いである。
この本の冒頭は上記の文章なのだが、この身内自慢と有名人のゴシップ的興味と露悪的な自虐趣味が窺える文章には思わずやられてしまった。こういうものを読んだら続きを読みたくないはずがなかろう。もちろん、即買って実に楽しく読んだ。

この本の内容としては、小説やオペラのなかで描かれてきた「宿命の女」(ファム・ファタル)を取り上げて著者が楽しく遊んでみせる、ということになろうか。間違っても、研究とか論文とか言う類いの色気のないものではない。時に生々しく、時にユーモラスに、時に底意地が悪く、自由奔放に「彼女たち」のことをおしゃべりしている。その面白さ。
著者の青柳いづみこも立派はファム・ファタルである。

実に幅広いジャンルの小説を扱っているのでブックガイドとしても楽しめる、と言いたいところが、何しろ自由奔放な著者なので、小説の粗筋をオチまで詳細に書いてしまったりは全くもって平気で、未読のものなどはいささか興がそがれる。まあ、そのへんはあまり気にしないようにしよう。別に悪気があるわけじゃなく、全部書いてしまいたくなるほどその小説が魅力的なのだろう。

ちなみにこの本に出て来る小説のタイトルと作家名を書きうつしてみる。主なものだけ。
太宰治「カチカチ山」泉鏡花「高野聖」「沼夫人」阿部次郎「三太郎の日記」M・G・ルイス「マンク」有吉佐和子「悪女について」渡辺淳一「阿寒に果つ」アベ・プレヴォ「マノン・レスコー」メリメ「カルメン」「マテオ・ファルコネ」オスカー・ワイルド「サロメ」ミッキー・スピレイン「裁くのは俺だ」ウジェーヌ・シュー「パリの秘密」谷崎潤一郎「痴人の愛」ベラダン「至上の悪徳」出口裕弘「京子変幻」ピエール・ルイス「女と人形」トマス・ハーディ「日蔭者ジュード」有島武郎「或る女」宇野浩二「苦の世界」椎名麟三「永遠なる序章」フロベール「サランボー」マンシェット「眠りなき狙撃者」ムージル「トンカ」モーリャック「夜の終り」藤田宜永「求愛」

小説ではないが、演歌歌手原田悠里が書いた「ひばりとカラス」も紹介されていて、これがまた実に面白そうな本なのだ。これも読んでみたい。

青柳いづみこの本領発揮といえるのは、例えば「痴人の愛」のその後を想像してみるくだりである。うーん、こんなこと考えてみたこともなかった。これこそまさに女性でなければ思いつかない「その後」だ。まさかあのナオミがこんなことになるなんて・・・。青柳いづみこ、恐るべし。
他にもオスカー・ワイルドの「サロメ」のサロメは女性ではなく男なのではないか、という指摘も実に何とも鋭い。

青柳いづみこの本をもっと読んでみたい。
無邪気と悪魔は紙一重
白水社
青柳 いづみこ

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