「SFマガジン 2012年3月号」 女王の窓辺にて赤き花を摘みし乙女と火星の皇帝

雑誌「SFマガジン 2012年3月号」早川書房 2012年1月25日(水)発売・購入 ブックファースト北千住店 定価940円
2012年1月29日(日)読了

2011年度英米SF受賞作特集(4作品収録)
シオドア・スタージョン記念賞受賞「雲海のスルタン」ジェフリー・A・ランディス 中原尚哉訳
金星の浮遊都市に招かれた女性科学者とその助手(男性)の前に現れたのはまだ少年と呼べるような幼い君主であった。彼には心に秘めた計画があった。
浮遊都市、さまざまな飛行機械、空賊といったアイテムが登場するが、どうしても宮崎駿の作品を思い出してしまう。作者には気の毒だが、既知感に囚われてしまい、素直に楽しめない。金星の情景描写は巧みだし、社会の描き方(特に結婚制度)も面白いのだが。
ラストの「脱出」のアイデアも何だかアニメっぽい。

ヒューゴー賞&アシモフ誌ノヴェレット部門受賞「火星の皇帝」アレン・M・スティール 古沢嘉通訳
火星に労働のため赴いたジェフに届いたのは地球に残した家族の訃報であった。精神的打撃を受けた彼はやがてあるものを火星上で発見し、奇妙な行動をとるようになる。
妄想の世界に入ることが結果的にその人間を救うことになる、という発想が面白い。そこに過去のSF作品が重要な意義を持つのも愉快であり、ストレートなSF讃歌になっていて感動する。

アナログ誌読者賞ノヴェレット部門受賞「アウトバウンド」ブラッド・R・トージャーセン 中村仁美訳
戦争により地球が炎上したとき、少年は11歳だった。命からがら幼い妹とともに木星行きの宇宙船に乗った彼を待ち受けていたのはさらに過酷な運命であった。
少年が主人公なのでもっと甘いものかと思ったら、非常にハードな事態が連続して起きて唖然とする。話にひねりはなくむしろ直球勝負なのが好印象。数々の苦しみを乗り越えて前に進む少年の姿がいい。傑作。

ネビュラ賞ノヴェラ部門受賞「女王の窓辺にて赤き花を摘みし乙女」〈前篇〉レイチェル・スワースキー 柿沼瑛子訳
女王お抱えの魔術師である「わたし」(女性)は矢で射抜かれて殺された。だが、女王は「わたし」の魂を召喚し、他人の肉体を器として「わたし」は甦った。女王は「わたし」に向かって敵の襲来に対する撃退策をたずねて来る。それが延々と繰り返される「儀式」の始まりだった。
今月号のベストワン。圧倒的面白さ。女性が権力を握る世界の仕組みが、出産も含めて考えられているのがいかにも女性作家の作品。登場する女性が主人公を始めとしてみんな性格が相当悪いのがユニーク。作者のシニカルな視線を感じる。まだ前篇なのでこれからどういう展開になるかさらに楽しみ。

「ウェイプスウィード」(後篇)瀬尾つかさ
うーん、残念ながらそんなに面白くなかった。未知の生命体に遭遇する話というとどうしてもスタニスラフ・レムの「ソラリス」を思い出してしまう。しかもソラリスは「海」だし、こちらも海に生息する生物だし、なんだか比較してみたくなる。作者には気の毒だが、既知感を振り払えず、さらなるプラスアルファも見いだせなかった。レムに挑戦という野心は分かるのだが、レムは超えられなかった。

(追記)「TIME/タイム」という映画の紹介している文章にこんなくだりがあった。

ハーラン・エリスンが短篇「「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった」との類似を訴えていたが、公開前に和解が成立。細部はともかく全体的にはまったく似ていないと私は思うが、どうだろうか。(108ページ 添野知生の文章)

いかにもハーラン・エリスンらしい話。相変わらずのトラベルメーカー。そんなところが大好きだ。中学生のころ、「少年と犬」を読んでからファンになった。「少年と犬」のラストはSF史上最高に泣かせるラストシーンである。
ちなみに2011年度のネビュラ賞ショート・ストーリー部門を受賞しているそうなので作家としてもまだ現役なのだと分かって嬉しい。(93ページ)
ハーラン・エリスンは1934年生まれの77歳。山田太一と同年齢である。エリスンは5月27日、山田太一は6月6日生まれ。(1月30日 記)


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