「リアル・スティール」 大義のために 

小説(短編集)「リアル・スティール」STEEL AND OTHER STORIES 2011年 アメリカ リチャード・マシスン著 小田麻紀訳 2011年11月25日初版発行
2012年1月1日(日)読了

ハヤカワ文庫から出た「リアル・スティール」は同名映画の公開に合わせて日本で独自に編集したものだが、こちらの角川文庫版は、アメリカで編集された短編集の完訳本である。両方比べても表題作しか被っていないのでそれぞれヴァラエティーに富んだ作品群が楽しめる。どちらかと言えば、角川文庫版の方が変な話が目立つし、ユーモラスなものをチョイスしている傾向がある。
以下、全15編について簡単に感想を書いておく。(掲載順)

「リアル・スティール」
これ、1997年という時代設定なのが、2012年に読むと妙に可笑しく感じる。マシスンが書いた当時は未来の話だったのに、今では15年前も昔の話だ。でも、現実にはロボットボクシングはまだ存在していない。古いSFではよくあることだけど。

「因果応報」
傲慢で毒舌を吐く老人が、死んで地獄に落ち、そこで見たものは・・・という話。教訓じみていてあまり面白くない。

「結婚式」
やたらに縁起を担ぐ男が、結婚式を行うに際して色々といちゃもんをつけて花嫁を困らせる。やがて恐るべき運命の皮肉が二人を襲う、という話。ユーモアもの。オチも結構しょうもない。そこが逆にいい。

「征服者」
しごく真っ当な西部劇小説。マシスンはこういうのも書いているのか。いかにもアメリカ人がセレクトした作品という感じ。どうも西部劇小説の魅力がどこにあるかが私にはよく分からない。ラストの一行に皮肉な味わいがあるが、それ以外は取り立てて捻りなし。

「日記さんへ」
日記に向かって日々の不満をぶつける女の子の話。これまたしょうもない発想のユーモアもの。一度使ったら二度使えない類いのものだが、ただ単純に馬鹿馬鹿しくていい。

「下降」
敵国の爆弾が投下されようとしている緊迫した状況のなか、人々は地下シェルターへの避難を迫られる。いかにも冷戦下の核戦争への恐怖に裏打ちされた破滅ものSFの典型。話をひっくり返すオチとかはなく、ストレートな終わり方。

「なんでもする人形」
手に負えない赤ん坊の乱暴狼藉に業を煮やした夫婦が買ったのは、人間の行動を真似てなんでもする人形だった。ダークなユーモアの傑作。オチは予想はつくが、それでも面白い。

「旅人」
タイムトラベラーがやってきたのは、イエスが処刑されるそのとき、その場所であった。マイケル・ムアコックの「この人を見よ」と同じアイデア。欧米人にはとても関心がある題材なのだと思う。ラストまで読むとこれが一種のクリスマス・ストーリーだということが分かる。

「時代が終わるとき」
地球にただ一人生き残った男が、その状況に自己陶酔しながら、人類の最期を描く詩を書き連ねている。だが、彼の前に思わぬものが現れる。シリアスな破滅SFかと思っていると、それを裏切るシニカルなユーモアに足をすくわれる。面白い。

「ジョークの起源」
いかがわしく卑猥なジョーク、それはいつ誰が生み出し、どう広まって行ったものなのか。その疑問にとりつかれた男が、世界中を旅して、さまざまな人々に会い、情報を収集し、辿りついたのはある恐るべき真相であった。
この世界は、実は何か得体の知れない組織が裏で操作しているにすぎない、という陰謀論のパロディ。よりによってエロジョークが、このような大義と深謀遠慮から生み出されているとは思いもしなかった。まったく変なこと考えるよ、と非常に感心した。傑作。

「レミング」
超有名作。「13のショック」という短編集にも収められている。今では、どうやらレミングというのはこういう行動はとらないぞ、というのが定説になっているようだが、それでこの作品の価値が下がるわけでもない。破滅SFの大傑作。

「境界」
これまた古典的名作。これも「13のショック」収録。そこでは、「次元断層」という邦題だった。カッコいいタイトルだが、よく考えてみるとネタばれ。かといっていまさら「境界」ではしっくりこない。「次元断層」に慣れてしまったから。
タイトルはともかくとして、パラレルワールドものの一つの原型として大いに評価したい作品だ。もし、自分がこんな事態になったらどうしよう、とつい思ってしまう。まあ、ないけどね。

「サンタクロースをたずねて」
妻殺しを他人に依頼した男がアリバイ作りのために時間をつぶしている間の心理状態を描いたミステリ。単純に他人を信用しては駄目だよ、という教訓つき。これもクリスマスものだが、ハッピーエンドにはならない。

「ドクター・モートンの愚行」
歯科医のモートンが治療した患者は一風変わった男であった、というかどうやらこの世のものではないようだ。読んでいるとこの男が吸血鬼なんじゃないか、と思えて来る。まあ、吸血鬼だったら、歯はとても大事なものだからどうしても治したいはずだ。シリアスなタッチで描かれているが、実はよく考えてみると相当コミカルな設定である。マシスンの眼の付けどころがいい。

「時の窓」
ノスタルジックでロマンティックな作品。82歳の老人がふと気付くと、過去の世界に戻っていて、初恋の少女や当時の自分に出会う、というよくあるタイムトラベルもの。こういうものを書かせてもマシスンはそこそこうまくて読ませてしまう。
あと、話の本筋には何の関係もないのだが、作中にマルクス兄弟の「華麗なるレース」というタイトルが出て来る。これは何だろう。マルクス兄弟にそんなタイトルの映画があっただろうか。謎だ。
リアル・スティール (角川文庫)
角川書店(角川グループパブリッシング)
2011-11-25
リチャード・マシスン

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