「リアル・スティール」 おま★★が禁じられた社会

小説(短編集)「リアル・スティール」2011年 リチャード・マシスン著 尾之上浩司編 伊藤典夫・尾之上浩司訳 ハヤカワ文庫NV 2011年10月15日発行
2012年1月1日(日)読了

映画「リアル・スティール」が公開されるのを機にその原作短編を含む全10編の短編集を日本で独自に編集したのがこの文庫である。編者は、近年のリチャード・マシスン復活に尽力している尾之上浩司なので解説も含めて実にきめ細かい仕事がなされている。作品のセレクトも上手い。ただ、表題作に関しては商売上やむを得ないこととはいえ、2010年の短編集「運命のボタン」(これも日本独自のもの)と重なっているのがちょっと気になる。正直言うと、全体的レベルも「運命のボタン」方がやや上か。それでもマシスンだから面白い作品が並んでいるのは確かだ。
以下、簡単に収録作品の感想。(掲載順)

「リアル・スティール」(「運命のボタン」では「四角い墓場」というタイトル)
以前読んだ時はピンとこなかったが、映画版を観てあらためて読んでみると、これはこれでなかなかの傑作であると思う。ストーリーはさして優れているとは言えないが、誇りを失わない敗者の姿に感動する。もう一度、映画化する機会があったら、この原作どおりにやっても傑作ができるのではないか。今度の映画版も全く別の意味で傑作ではあるが。

「白絹のドレス」
ホラーなのかサイコ・スリラーなのか。オチも今一つよく分からない。初めは、少女=母親と思っていたのだが、どうも違うようだし、ドレスが魔物なのかと思うと、ラストの一行「おなかはいっぱいだもの。」の意味が分からなくなる。

「予約客のみ」
昔からあるネタをマシスンらしく料理して見せた佳作。解説によるとマシスンの得意ネタでいくつかあるらしいが、私は「運命のボタン」のなかの「針」を思い出した。

「指文字」
聾唖者の手話をこういうふうに作品に取り入れるのはどうもすっきりしない。手話でなくても成立する話ではないか。

「世界を創った男」
5年前に世界を創造した、と主張する男と医師の話。SFコントみたいなもの。このオチだったら何でもできるんじゃないのか。

「秘密」
よく読まないとオチが分からないタイプの短編の代表、という解説通り、これは到底分らないや。こういうキリスト教がらみのオチは注釈されないと日本人にはまず理解不能。いや、アメリカでも何度も没にされたそうだから、似たようなものか。それにしても、このオチで何が言いたかったのだろう。それも分からない。

「象徴」
ディストピアもの。ある種のものが禁じられた社会において、秘かに少数の人々の心のよりどころになっているものとは何か、という話でなかなか面白い。

「おま★★」
この短編集のベストワン。有名な作品だが、今回は特に邦題が抜群に上手いので評価が上がった。ひとつ前の「象徴」と設定がかぶるのも心憎い構成だ。できれば、同じ登場人物が出て来る「帰還」(「運命のボタン」収録)も一緒に入れたかった。シリアスな傑作「帰還」と真逆なこの作品を対比するのも一興だったのに。
それにしても、おま★★が禁止された社会というとんでもないアイディアは何度読んでも愉快だ。もっとも、福島の原発事故が起きた今、こういう社会にならないという保証はないかも。そう考えると少し怖い。

「心の山脈」
自分の脳波を記録したグラフを見た主人公は衝撃を受ける。「これは心の山脈だ」
グラフの起伏とそっくりの山脈が、この国のどこかにあるはずだ、と思い込んだ彼は恋人と別れて山脈を探す旅に出る。
とんでもない妄執に取りつかれた男、という設定が面白い。どういう方向に話が進むか全く予想が付かない。やがて、彼は本当に山脈を発見してしまう。そこに彼を待っていたものとは。・・・。
ホラーかと思ったらラストはSFテイスト。スティーヴン・スピルバーグの「未知との遭遇」の発想の原点の一つは案外これなんじゃないか、と想像してしまった。傑作。

「最後の仕上げ」
早い段階で殺人が起き、ミステリかと思わせ、やがてホラー的展開になり、ミステリとして仕上げる、という鮮やかな作品。ロベール・トマの作品に共通する味わいがある。まあ、警察はこんなことしないだろう、と言ってしまえばそれまでだが。


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