「史上最大の作戦」 1944年6月6日、オペレーション・オーヴァーロード発動!

ノンフィクション「史上最大の作戦」THE LONGEST DAY 1959年 アメリカ コーネリアス・ライアン著 広瀬順弘訳 ハヤカワ文庫 1995年1月31日発行 1995年8月15日5刷
2011年11月19日(土)読了

映画「史上最大の作戦」は観たことはあるが、原作を読むのはこれが初めて。映画の方も30年以上前に観たきりなのでもはや遠い記憶のかなたなので別に比較してみることもなく、新鮮な気持ちで相対することができた。

第二次世界大戦において最も大掛かりな上陸作戦「オペレーション・オーヴァーロード」は、1944年6月6日火曜日、フランスのノルマンディにて決行された。
この本は、その歴史に残る一日を描き切ったノンフィクションであり、著者がいうところの「人間の物語」である。

この文庫にして400ページの長編の最初に登場するのは、ドイツの陸軍元帥ロンメルである。連合国の大作戦を描いた作品の冒頭が何故ロンメルなのか。わざわざここに持ってくるというのは、よほどロンメルというのは人気があったようだと推測される。実際、私もどういうわけか子どものころから「ロンメル将軍」という名前だけはしっかり頭に入っていた。他のドイツの将軍の名前なんかいまだにただの一人も知らないのに。
軍人としての錚々たる功績に加えてヒトラーに抗した悲劇的結末によってロンメル贔屓というのが各国に存在しているらしい。興味深いことである。
ただ、このノルマンディの攻防戦のその日はあいにくロンメルはドイツに帰国していた。この辺が実に運命の皮肉と言うべきか。ロンメルが当日、フランスにいたとしても戦況が大幅に変わったとは到底思えないが、「もしも」を空想してみるのも面白い。

ロンメルを始めとする重要人物の名前も出て来るが、この作品に名を挙げられているのはほとんどが社会的には無名な兵士や民間人である。歴史の教科書にはまず出てこないそのような人々が、実名で出てきてそれぞれの行動がきめ細かに描かれると実に臨場感が醸し出される。
この本が出版されたのは、ノルマンディ上陸から15年しかたっていない1959年、まだ戦闘の経験者がたくさん存命だった時代なので取材もかなりの密度の濃いものができたのではないか。そういった取材の裏付けとさまざまな資料の比較検討があったからこそこの本がすぐれたものになったと言える。
頭の中で組み立てた話ではなくて、現地にいて戦闘のただなかに身を置いた人間ならではの「肉声」が読むものに強く響いてくる。

6月6日午前零時15分きっかりに連合軍空挺部隊の降下が始まる。これこそが「オペレーション・オーヴァーロード」の幕明けであった。長い時間をかけて練られた軍事行動ではあるが、机上の計画と現実とは必ずしも一致しない。
この初っ端の降下作戦にしてからが予期せぬことの連続で、幾多の命が無為に失われた。
降下すべき位置から遥に流されたパラシュートの兵隊たちは沼地であるいは英仏海峡であえなく命を落とした。また、ドイツ軍が待ち構えている教会広場に降下してしまったものたちも惨殺された。ただひとり教会の尖塔にパラシュートが引っかかった兵隊のみ命拾いする、というのは映画版でも印象的なシーンでこれは例外的に覚えていた。

午前6時30分に始まった上陸作戦の詳細については映画「プライベート・ライアン」が偏執的に描いていたが、映像がないこちらの方もまた想像する別の楽しみがある。かなり抑制的な文章ではあるが、やはりスプラッター的描写は織り込まざるを得ず、その迫真力もなかなかのもの。上陸部隊のかなりの兵隊が酷い船酔いにやられていたこと、上陸前に小艇のいくつかは沈んでしまい、それの巻き添えで死んだものがいたこと、が分かる。先の空挺部隊もそうだが、戦地に赴いたのに何の戦いもしないうちに死んでしまう、というのも相当に不条理だ。まあ、戦争そのものが不条理ではあるが。

沖に浮かぶさまざまな軍需品のなかになぜかギターがあった、と言う記述が面白い。誰が何のために持ってきたのか。ただでさえ装備が重すぎ、そのために水に沈んだら自力で浮かび上がれず溺死したものがいたというのに。事実は小説より奇なり。

海岸に上陸した連合軍に対してドイツ空軍機がたった二機で機銃掃射を行い飛び去って行った、というくだりも不思議な爽快感がある。

他にもいっぱい面白いエピソードが詰まっていて、映画や小説のネタにするのにふさわしいものがいくつもある。
新聞に掲載されるクロスワードパズルの制作者が、機密漏洩の容疑で英国情報部に目をつけられ取り調べを受ける、と言うのも面白い話だ。結局、単なる偶然ということらしいが、それにしてもパズルの答えが、「オーヴァーロード」「オマハ」「ユタ」だと言うのは疑われてもしょうがないか。

ドイツの情報筋も連合軍の暗号を掴んでいた。BBCが流すヴェルレーヌの詩「秋の歌」がそれだ、とまで分かっていて上陸が間近と確信していたのにその情報が全軍に上手く伝わらなかったようだ。旧日本軍も米軍もそうなのだが、どうも情報部門と軍事部門の意思の疎通がうまくいかないのは何故なんだろう。意図的なものなのか、単なるケアレスミスか。上層部の縄張り争い、もしくは個人的な好悪の話か。

上陸地点でもオマハは地獄のような大激戦になったのにユタの方はドイツ軍の抵抗はほとんどなく、まるで演習のようで「上陸はたいしたことがなかったから、いささかがっかり」した、と兵隊が語っている。これも実に皮肉な話。
皮肉と言えば、オック岬の攻略なんかはそのさいたるもの。切り立った崖にたつ砲台を破壊すべく、レインジャー隊員たちが決死の覚悟で戦い、甚大な被害を出し、やっと制圧したのだが、そこには目指す重砲は存在しなかった。多くのものはまさに無益に死んだのだ。

この上陸作戦は歴史的に見れば連合軍の圧倒的勝利、として片づけられてしまうものである。だが、「勝利者」の連合軍兵士も「敗者」のドイツ軍兵士もたくさん死んでいる。そのことを忘れないためにあえて名もない兵士のことをこの本の中でたくさん書いているのだと思う。その辺の著者の姿勢に共感する。
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