「ニュルンベルク・インタビュー 上巻」 戦争の正当性、占星術

ノンフィクション「ニュルンベルク・インタビュー 上巻」2004年 アメリカ レオン・ゴールデンソーン著 ロバート・ジェトラトリー編・序文 小林等 高橋早苗 浅岡政子訳 河出書房新社 2005年11月30日初版発行
2011年9月9日(金)読了

ニュルンベルク裁判で裁かれた被告や証人たちから精神科医レオン・ゴールデンソーンがインタビューしたものをまとめた本。上下巻のうちとりあえず上巻を読んだ。

ゴールデンソーンは軍に派遣され、1946年1月3日から1946年7月26日までニュルンベルクの収容所付き精神科医を務めた。前任者から引き継いだのだが、この時点ですでにニュルンベルク裁判は始まってから一ヶ月を経過していた。つまり裁判の進行中にこのインタビューは行われているということである。従ってここで得られた証言が裁判に反映するということはないが、少なからぬ人々には警戒心があり、虚心坦懐に話しているかどうかは疑問が残る。それでも、自己アピールしたいという欲求もまた存在するのでかなり興味深い発言が多くて実に面白く読んだ。
ただ、著者のゴールデンソーンがこの記録を本にする前に亡くなっているのでやや混沌とした印象を受ける。かなり未整理で雑駁な感じもする。人によりやたら長いインタビューもあれば、あっさり片付けられているものもある。その辺に物足りなさもあるが、素材をそのまま提示しているようでもあり、これはこれで魅力的でもある。
基本的にゴールデンソーンは、冷静沈着にインタビューを進めて相手の発言を引き出しているが、時として相手に対する好悪の情が窺え、感情的になったりする場面もある。
これが公的文書ではなく、あくまでも個人的な記録であるというのも注目すべきところだろう。ゴールデンソーンの死後、長い間眠っていたものが親族により発見・復活したものだそうだ。
公式な裁判記録にはありえないようなプライベートな質問も飛び出したりするのがこの本のユニークなところだ。

上巻では、「第一部 被告」として10名、「第二部 証人」として7名が収められている。第二部に出て来る「証人」もほとんどが、ニュルンベルクおよび他の裁判での被告である。
17名の中から読んでいて印象的な何人かについて書いておく。

ヘルマン・ゲーリング 空軍総司令官・プロイセン州知事
「私にとって、ヒトラーは二人いた。一人は対フランス戦が終わるまで存在した。もう一人は、対ロシア戦が始まったときに現われた。はじめのうち、彼は愛想がよく、好感が持てた。尋常ではない意志の力を持ち、前代未聞の影響力を人びとにおよぼした。」(102ページ)

ナチスドイツの「大物」としての強烈なプライドを持ち、インテリでもあり、毒舌家でもある。まことに興味深い人物で、ゴールデンソーンも心惹かれたようで50ページというスペースをとってさまざまなことを聞き出している。芸術感や好みの作家に至るような「雑談」もあり、これも面白い。

「おもしろいことに、ドイツで売れたミステリー作家はイギリス人とアメリカ人だけだ。たぶん、フランス人もいるだろう。ドイツはあまりに秩序が守られているので、よくできた犯罪小説を生み出せないのだ」
「ヒトラーは文学に関心がなかった。以前より犯罪小説、特にアメリカの作品の出版が増えた。アメリカ文学は、犯罪小説以外もよく売れ、たとえば、『風と共に去りぬ』などがベストセラーになった」(96ページ)

ヒトラー政権下で「風と共に去りぬ」が読まれていたとは知らなかった。ドイツは秩序が守られているので云々という発言は思わず笑ってしまった。まあ、すぐれたドイツ人ミステリ作家なんて聞いたことがないのも事実だが。

ヒトラーを悪しざまに言っていないのも印象的。この上巻の他の人もヒトラーを酷評しているのは案外少ない。絶賛ではないけれどある時期までのヒトラーへの信頼感が残っている表れだろうと思う。
逆にほとんどの人が嫌っているのが、ヒムラー、ゲッペルス、ボルマンというヒトラーの取り巻き三人。三人ともこの裁判の時点で行方不明か死亡していたので攻撃しやすいのか、擁護する発言が見当たらない。ユダヤ人虐殺に関してはヒムラー、ゲッペルスに全部責任を押し付けている。この本の発言者たちは、「自分は知らなかった」「噂には聞いたことはあるが、ドイツ人ではなく外国人がやったと聞いた」「担当部署が違う」「聞いたけれど詳しく知ろうとは思わなかった、知りたくなかった」し、「少年時代には近所にユダヤ人がいて普通に交流していた」「私は反ユダヤ主義ではない」「初期のころに何人ものユダヤ人を助けてあげた」「反ユダヤ主義は選挙用のスローガンに過ぎないと思っていた」という趣旨のことを話す。その多種多様な「言いわけ」が興味深い。

エルンスト・カルテンブルンナー 国家保安本部長官
いわゆる警察組織の人間であり、軍人ではないのだが、何故かこの戦争の正当性を強く主張している。ドイツの複雑な警察組織について詳細に説明したりするのが得意で他人に講義するのがそもそも好きなのだろう。
独ソ戦が、いかにドイツにとって正しい戦争であったか地図まで書いて説明する。

「ソ連は、ハンガリーおよびルーマニアとに国境地帯に軍隊を配備していた。それこそ、ソ連がバルカン諸国に侵攻しようとしていた動かぬ証拠だ。(中略)ドイツにたいしてだけではなく、ヨーロッパ全土にたいしても侵略戦争が起こっていたと言える。」
「つまり、敵が攻撃をもくろんでいることを、スパイ活動や敵方の背信行為を通じて知り、こちらから先制攻撃をしかけたとすれば、それは防衛であって侵略ではないということだ。ソ連を攻撃したドイツの場合がそうだった。われわれは、ちょうどよいときにソ連の意図を知ったにすぎないのだ。」(76ページ)

なんて手前勝手な論理か、と嘲笑することは可能だが、これに似たような主張を最近読んだな、と思いだした。
ジョージ・W・ブッシュの「決断のとき」という本の中でブッシュ大統領は、イラクが大量破壊兵器を持っていて査察にも応じないのでこのままではアメリカおよび世界の脅威になると判断し、先制攻撃を行った経緯を詳しく述べている。
これって、ナチスドイツよりひどい行為じゃないか。戦争指導者による戦争の正当性の主張でこれほど強引なものも珍しい。結局、大量破壊兵器は見つからなかったのだが、これほどの戦争を引き起こしたブッシュ大統領に対して戦争犯罪人として裁こうという意見は聞いたことがない。所詮勝てば官軍か。敗者には味方がいない。

ヴァルター・シェレンベルク SS保安諜報部・国防軍諜報部長官
所謂諜報機関のトップの人物だが、言っていることがトンデモなさすぎて唖然とする。なんと彼は占星術が得意で、1944年7月のヒトラー暗殺未遂事件を2月の時点で予想していたと言うのだ。さらにヒトラーの死を1945年4月とも予想した。彼は、この占星術の力でヒムラーをヒトラーの後釜にしようとしたのだ、と言う。
ナチスとオカルティズムの関係については以前にも何かで読んだ記憶があるが、こういう当事者の発言には重みがある。
それにしても、他の人ならともかく諜報機関の長官がこんなことを言っちゃだめだろう。優秀な諜報部員が集めてきた貴重な情報を緻密に分析した結果、ヒトラー暗殺計画が判明した、というのが本来の姿だろうが、それを私が占星術で予想したって自慢されても困る。諜報機関というものの自己否定だもの。諜報部員全員辞めさせて占星術師と入れ替えるか。
さすがナチス、多士済々である。






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