「ニュルンベルク・インタビュー 下巻」 私は自分で人を殺してはいない。

ノンフィクション「ニュルンベルク・インタビュー 下巻」THE NUREMBERG INTERVIEWS 2004年 アメリカ レオン・ゴールデンソーン著 ロバート・ジェラトリー編・序文 小林等・高橋早苗・浅岡政子訳 河出書房新社 2005年11月30日初版発行
2011年9月18日(日)読了

上巻は面白かったのだが、下巻にくるとさすがに飽きて来る。みんな同じことの繰り返しだから。言いわけ、責任転嫁、無責任、無反省の言葉の洪水で心が沈んでしまう。それに出て来る人々が小物すぎる。自分が大物だ、と威張っていたのは上巻のゲーリングくらいで、あとはみんな自分がいかに小物でナチス政権内で力がなかったを説明するのに汲々としている。いわく、肩書だけは立派だが実質的権限はなかった、ヒトラーに逆らって疎まれていた、指示や命令を出していただけで実際に何かしたわけではない、等々。
この本を読んでつくづく分かったことがある。今までアメリカやヨーロッパの国々の作ってきた映画に登場するナチスから勝手に思い込んでいたイメージは間違いだったのだ。ここには、悪魔的人物などはどこにもいない。狂信者も精神異常者もいない。ヒトラーにマインド・コントロールされていた者もいない。いやそれどころか、反ユダヤ主義を掲げる者もほとんどいない。いるのはただごく普通の人間なのである。当たり前の家庭に育ち、身近にユダヤ人がいて親交があり、普通の教育を受け知性と教養の持ち主で、感性豊かな人間。そういう人間がある状況下においてとんでもなく非人道的な行為をやってしまうのである。
戦争中は、我が身かわいさでヒトラーの命令に逆らえずに残虐行為に手を染め、戦後は我が身かわいさで一転してヒトラーやゲッペルス、ボルマン、ヒムラー、アイヒマンに罪をなすりつける。その卑劣さは首尾一貫しているとは言えるが、卑劣でなければ生き延びられない時代でもあったのだ。もちろん、彼らに同情も共感もしないが、まったくの極悪非道の冷血漢と呼ぶ気もない。時代が変われば人はこういうものになりうるのだと肝に銘じておきたい。

下巻では、第三部被告として9名、第四部証人として7名の発言が収められている。印象に残った者について簡単に触れておく。

ハンス・フランク ヒトラー顧問弁護士・ポーランド総督
非常に面白い提案をしている。既に死亡しているヒトラーを起訴し裁判を行うべきだ、というのである。何故か。もし、このままヒトラーの裁判が行われなかったら、ドイツ人のあいだでヒトラー伝説が生まれるだろう。それを危惧する。

「時間には過去を美しく見せる効果がある。どんな荒廃した土地にもやがて草が生え、次いで低木が生え、ついには、気がつかないうちに、かつてのおぞましい荒廃地がロマンティックな光景となり伝説となるのだ。」(46ページ)

彼のこの危惧は、その後の世界を見ると外れたと言っていいのだろうか。ネオナチの動きもあるが、ロマンティックな光景だったり伝説だったりはないようだ。それにしても、ヒトラーの裁判、やるべきだったかもしれない。

フランツ・ハルダー 陸軍参謀総長
陸軍参謀総長という要職にありながら、1942年に解任、1944年のヒトラー暗殺未遂事件後に強制収容所に送られるという経歴の持ち主。ヒトラー政権末期の混乱期の象徴のような人物。収容所で日常的に処刑が行われるのを見聞きしていた。カナリス提督もそこで処刑されたという。

ルドルフ・ヘース アウシュヴィッツ強制収容所所長
下巻におけるもっとも注目すべき人物。収容所で行われていた行為に対する詳細極まる説明を読むだけで嫌になるのだが、ヘース自身はいかにも小物でたんなる官僚にすぎないようにしか思えない。別にユダヤ人を憎んでいたわけでもなく、サディストだったわけでもない。ただ上から与えられた仕事が「人を殺すこと」だっただけだ。しかも自分で直接殺したわけではない。

「私は正しいことをしていると思っていたし、命令に従っていると思っていた。いまは、もちろん不必要で正しくないことだったと知っている。しかし、このことで心がかき乱されるとは、どういう意味か、、私にはわからない。私は自分で人を殺してはいない。アウシュヴィッツで絶滅計画を監督しただけだ。ヒムラーを通してそれを命じたのはヒトラーであり、移送に関する命令を私に下したのはアイヒマンだ。」(238ページ)

人間は命令されればどんなこともできる、ということだ。案外、命令されて動くのは気楽かもしれない。自分で考える必要がないのだから。あとで問題になったら命令したものの責任にしてしまえばいいのだから。

命令する側にも命令される側にも絶対なりたくない、と思うが、これから先にそのような立場にならないとは絶対には言えない。そうなったとき、自分はどうするだろうか。



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