「裁かるるジャンヌ」 神映画

DVD(映画)「裁かるるジャンヌ」1928年 フランス 監督・脚本・編集:カール・Th・ドライヤー 撮影:ルドルフ・マテ 出演:ルネ・ファルコネッティ ウジェーヌ・シルヴァン モーリス・シュッツ アントナン・アルトー 上映時間96分 無声映画 モノクロ DVD制作・発売・販売:紀伊國屋書店 DVD仕様:クリティカル・エディション デンマーク語字幕オリジナル版 日本語字幕翻訳:小松弘 オリジナル・リーフレット(解説:小松弘) 伴奏音楽:柳下美恵(ピアノ演奏) DVD特典 購入:紀伊國屋書店 定価5040円
2011年9月3日(土)鑑賞

再見。随分昔にフィルムセンターで弁士付きの上映を観た記憶がある。多分、30年以上前だろう。久々に観直してみたくなってDVDを買って観てみた。

映画史上に燦然と輝く超弩級名作であるのは今さら言うまでもないが、今回観直してこれが実にとてつもなく特異な映画だということを色々と再確認することができた。やっぱり、凄い映画は何度も観返して反芻しないとダメだ。特にこのところめっきり記憶力が減退しているからなおさらだ。忘れるなら何度も何度も観るべき、という当たり前のことをさぼっていた。反省。

芸術映画であるとか前衛映画とか喧伝されてはいるが、観てみれば至極単純で分かりやすく面白い娯楽映画であることが了解される。何しろ描かれるのは、人口に膾炙したジャンヌ・ダルク裁判の顛末なのだから世の大抵の人はすんなりと観ることができるであろう。それにしても、無声映画で裁判劇をやろうというのはなんという大胆不敵な企画か。それも、デンマーク人のドライヤーがフランスに招かれてフランスの救国のヒロイン、ジャンヌ・ダルクの映画を作るというのだから野心満々である。
もちろん、フランスの歴史やジャンヌ・ダルクの人生、当時の教会組織、といったことについて知識が豊富であれば、この映画を観る面白みも増すし理解も深まるだろうが、通り一遍の知識だけでも十分楽しめる。映画は別に歴史のお勉強のために観るわけじゃないから、映画は世界各国の普通の人が普通に観て楽しむものだから。

この映画には、ジャンヌ・ダルクの過去が一切描かれていない。彼女がどのように生まれ育ち戦ってきたとかが映像で表現されることはない。あくまでも邦題通りに裁かれるジャンヌが描かれるだけだ。
その描き方がずば抜けて特異であり、およそ他に似た映画を思い出せないくらいである。裁判にかけられたジャンヌが孤高の人と評されるのなら、この映画は孤高の映画と呼ばれるだろう。

この映画を観始めてすぐにその異様さに気づく。何というクローズアップの多さだろう。どうしてこんなに人間の顔にこだわって撮影するのだろう。こんな映画観たことない。
特にヒロインジャンヌを演じるルネ・ファルコネッティの顔。まずその顔の演技が凄い。大きく見開いた眼が強烈なインパクトを与える。大仰と言えばこれほど大仰な表情演技はまずお目にかかれない。まさに狂信者もしくは狂人ではないかと思わずにはいららない。「救国の乙女」ジャンヌ・ダルクをこういうふうに演じさせるというのはえげつないまでに凄まじい。他の登場人物にはこのような芝居がかった大仰な演技をさせず、ごく当たり前の演技なのでなおさらジャンヌが際立つという仕組みである。
さらにルネ・ファルコネッティの顔そのものの撮影の仕方。ノーメークのすっぴんなのだが、そこへクローズアップを盛んに用いることにより、超リアルに彼女の顔を曝け出している。若い女優なのに監督ドライヤーと撮影のルドルフ・マテは全く配慮というものがない。彼女の顔のぶつぶつ、皺、荒れた唇等々をこれでもかというくらいに映像として見せつける。それはまさに圧倒的である。ドライヤーとマテはサディストではないかと思われるほどである。他の映画において女優というものがいかに大事にされ綺麗に映されているものか今さらながら痛感する。だが、他の映画の綺麗な女優のことはすぐ忘れるが、この映画の彼女の顔は絶対忘れない。
裁判にかけられ処刑されるかもしれない立場の女性が外見的に綺麗であるわけない、という強烈なリアリズムに打たれる。実に過激だ。ドライヤーはおそろしい人である。
ジャンヌ以外の登場人物の顔もまたクローズアップの連続で次々に映し出され、その顔の多彩さで観る者を魅了する。人間の顔とというものはこれほど豊かなものなのか。
セリフが音として聞こえず、字幕で観るしかない無声映画なのにまったく退屈することなく緊張感とともに観ていられるのはこれらの顔のおかげである。顔とは何と雄弁なものか。

と、まあ終始圧倒されて観てきたのだが、最後の最後で思わず、「あれっ?」となってしまった。それはジャンヌが火刑になって死んだあとで、それを見物していた民衆が突然、怒り出して暴動になるくだり。こんなシーン、フィルムセンターで観た時、あったかな。ジャンヌの火刑で終わり、じゃなかったか。民衆がジャンヌを慕っていたという描写が前の方にあれば説得力もあるのだが、何だか大道芸人も出てカーニバル気分で楽しんでいたようにしか描かれていなかったような。突如としてスペクタクルなアクションシーンになるので呆気にとられた。
小松弘の解説によるとこの映画、莫大な資金を使ってオープニングセットを建設したということなので、それを利用してエキストラをたくさん揃えたスペクタルを撮らざるを得ない羽目になったのかな、と邪推する。フランスの「救国の乙女」を民衆を含めた全員が見殺しにしたかのようなラストにはやはり出来ないのだろう。それで、こんな取ってつけたようなラストになったと。
もうひとつ、気になったのは、ジャンヌが処刑される寸前に何故か、オッパイを吸う赤ちゃんの映像がワンカット挿入されたこと。なんだこれ。ジャンヌの死と赤ちゃんの生を対比させる意図があるとしたら、安直としか言いようがない。

9月18日(日)にフィルムセンターで「裁かるるジャンヌ」が上映されるので、このDVD版と見比べてみたい。どうやら上映時間が5分ほどこちらより短いようだが。
裁かるゝジャンヌ クリティカル・エディション [DVD]
紀伊國屋書店
2005-08-27

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