「戦争プロパガンダ10の法則」 ドイツ兵によって手を切断されたベルギー人の子供たち

評論「戦争プロパガンダ10の法則」2001年 フランス アンヌ・モレリ著 永田千奈訳 草思社 2002年3月29日第1刷発行
2011年7月22日(金)読了

このまえ読んだ立花隆の「ぼくの血となり肉となった五〇〇冊 そして血にも肉にもならなかった一〇〇冊」で紹介されていた本。面白そうなので買って読んでみた。
期待通りに面白い本であった。ただ、ページ数が212ページしかなくてしかも比較的大きめな活字なので遅読の僕にも一気に読めてしまったので欲を言えばこの10倍くらいの分量があった方が良かった。

戦争プロパガンダ10の法則というのは、実は著者のアンヌ・モレリのオリジナルのアイデアではない。オリジナルは、イギリスのアーサー・ポンソンビーが1928年に出版した「戦時の嘘」という本に記されているという。それをあえてアンヌ・モレリが73年後の2001年に復活させてこの法則が現在にも十分当てはまることを各法則ごとに具体例を挙げて検証しているのである。その具体例がどれもこれも面白いのだが、先に書いたようにもっとその量が多ければいいのにな、とない物ねだりをしたくなる。
ちなみに肝心の戦争プロパガンダ10の法則とは以下の通りである。

1「われわれは戦争をしたくはない」 2「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」 3「敵の指導者は悪魔のような人間だ」 4「われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う」 5「われわれも誤って犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為のおよんでいる」 6「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」 7「われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」 8「芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」 9「われわれの大義は神聖なものである」 10「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」

著者のアンヌ・パレリがフランス人であるせいか各法則で挙げられている具体例がヨーロッパ中心になっている。後はアメリカくらいであり、日本についてはほんの少ししか触れられていない。残念なような、ホッとしたような気分だ。
またヨーロッパの中でも自国フランスおよびイギリスをやり玉に挙げている傾向が見られる。やはり資料が集めやすく検証しやすいせいだろうか。ただ、フランス人の著者には自明のことであっても日本人の僕にとってはピンとこないこともいくつかあった。特に1990年代のユーゴスラヴィア紛争についてはほとんど知識がなかったのでよく分からなかった。フランスが大きくかかわったので著者もかなり言及しているのだが・・・。

戦争プロパガンダと言ってもいくつかのパターンに分けられる。圧倒的に多いのが、政治家や軍人が意図的に発するもっともらしい主張である。後に検証すれば、とんでもないものが大半なのだが、その時代のその国の人間にとっては説得力があったのだろう。あとは、情報の捏造や隠蔽、誇大もしくは矮小化。日本の所謂「大本営発表」をはるかにしのぐとんでもない例の数々。
ひとつ挙げておくと、第一次大戦において開戦一カ月でフランス軍の死者はすでに約31万3000人(!)にのぼっていたが、フランス軍は戦死者数を一切公表せず、当然ながら戦死者名簿も発表しなかった。そして、新聞はドイツ軍の損害ばかりを報道したという。自分たちに都合の悪いことは完全無視という姿勢が徹底していたのだ。政治家、軍人もひどいが、ジャーナリストも無責任の極みである。そして、芸術家や知識人と呼ばれる人々も同様である、と。こういう連中に国民は現在に至るも指導されてきたのだ。

もう一つ極めて重大な例。初めは民衆の間の都市伝説だったのか、あるいは一抹の真実があったのかもしれないが、何かのきっかけで膨れ上がった「話」がある。
それは第一次大戦中、「残忍なドイツ兵によって手を切断されたベルギー人の子供たち」がいる、という「話」だ。これが、連合国側で流布され、まだ参戦していなかったアメリカにも伝えられ、その影響があったという。
フランスの雑誌にはこんな感動的な「作品」が掲載された。

「神様、わたしにはもう手がありません。いじわるなドイツの兵隊に切られたのです。ドイツの兵隊は、ベルギーやフランスの子供には手は必要ないと言いました。ドイツの子供だけが手をもてるというのです。わたしの手は切り落とされてしまいました。とても痛かったです。でも、ドイツの兵隊は笑っていました。(略)」

戦後、この「話」に心動かされたアメリカ人富豪が、手を切られた子供たちを探すべく調査させたが、名前や場所が特定されていたいずれのケースも作り話であることが判明した。
ちなみにフランスの有名な学者二人が、ドイツ兵によって手を切断された100名ほどの子供をこの目で見たと断言したので彼らに対してその子供たちを見た正確な地名を明かすように要請したがついに回答はなかった。

この本を読んでいると、ある方向に国民を導いていくことは簡単だな、という気がする。大義名分とお涙頂戴で敵への憎悪をかきたて心を高揚させる。結構、気持よさそうである。自分が戦場で戦わなければ。高みの見物なら。だが、現代の戦争は必然的に一般国民を巻き込むものだから逃げ道はない。そうならないためにもこの本を熟読してプロパガンダに騙されないようにしなくてはいけない。
そんな気分になったら、アンヌ・モレリ考案の11番目の法則を読んでみよう。

「たしかに一度は騙された。だが、今度こそ、心に誓って、本当に重要な大義があって、本当に悪魔のような敵が攻めてきて、われわれはまったくの潔白なのだし、相手が先に始めたことなのだ。今度こそ本当だ」(日本語版に寄せて、より)





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