「ヒトラー・ユーゲント 青年運動から戦闘組織へ」

ノンフィクション「ヒトラー・ユーゲント 青年運動から戦闘組織へ」2001年 平井正著 中公新書 2001年1月25日発行
2011年7月3日(日)読了

親も教師もいない
「理想郷」の生活に酔った
少年たちは次々と戦場へ(帯より)

ナチ党の黎明期、まだ党員になれない少年少女は「ヒトラー・ユーゲント」として認知された。一方ドイツには、帝政時代から独自の「青年運動」の流れがあった。それを受け継ぐ指導者シーラハのもと、「ユーゲント」には、合法的だが暴力的、というナチらしさが隠蔽されていた。健康的で自律性の高い集団として人気を博していた彼らが、ヒトラーによって戦争に利用され、破滅への道を進まされていく運命を克明に辿る。(裏帯より)

240ページ余の読みやすいコンパクトな新書なので一気に読んだ。ヒトラー・ユーゲントというものにさほどの知識を持たなくても非常に分かりやすく頭に入る。著者の平井正は、取り立てて面白おかしくしようとして書いているわけではなく、文章はいささか堅いのだが、全編興味深く読むことが出来る。ナチス・ヒトラー関連の本はどれも題材の面白さがあり、全く飽きずに読める。

ヒトラー・ユーゲントの歴史、活動の詳細が興味深い。学校教育とは違うところで成立しているというのが、日本と違うところと言えよう。

「ヒトラー・ユーゲント」は学校より重要だった。学校と「ヒトラー・ユーゲント」との間には、ある種の競争があった。学校と「ヒトラー・ユーゲント」との間で、たがいに反目しあうことさえあった。「ヒトラー・ユーゲント」には奉仕があった。学校にはそれがなかった。奉仕はたとえば、駅に休暇列車や病院列車が到着したとき、その補助をすることだった。そのほかに「ヒトラー・ユーゲント」にはナチ党と同じく、警察つまり「ヒトラー・ユーゲント・パトロール」勤務があった。それは警察に似た機能を持っていた。(95ページ)

少年少女たちが次第にこの組織に取り込まれていくさまが腑に落ちるように書かれている。学校教育の中では得られない別種の楽しみに彼らが魅了されたのも無理からぬことである。
さらに20世紀らしいと言えるのは、映画というものの扇動力もこの組織の隆盛に一役買っていることである。特に「ヒトラー少年クヴェックス」という映画が多大な影響をもたらしたようだが、これは観てみたいものだ。(注1)

ヒトラー・ユーゲントの対外活動もかなり活発であり、日本にも1938(昭和13)年に来日している。三か月の滞在中に日本各地で熱烈な歓迎を受けたという。その際、「萬歳 ヒットラー・ユーゲント」(獨逸青少年団歓迎の歌)という歌が作られている。作詞北原白秋。ネットで検索するとこの歌を聴くことができる。何とも勇ましい歌詞と堂々たる歌唱ぶりがなかなかいい。なんでも便乗してしまう日本人の逞しさは昔から変わらない。あと外国かぶれも。
ちなみにこの歌のことはこの本には載っていない。

ヒトラー・ユーゲントの組織が巨大化し、さらにドイツが戦争に突入すると、活動内容も変容していく。ヒトラー・ユーゲントの初期から関わってきたゲッべルスでさえそのやり方に対して疑問と不満を持ちようになる。

ヘルガ(ゲッべルスの長女)も、はじめてそうした催しに参加した。催しそのものが二時間続いた。この二時間のためにヘルガは、朝の10時から夜の9時半まで歩かされた。私はユーゲント指導部に、戦時中にそうした催しをするのは、時宜に適っているとは思えないと、はっきり言ってやった。(168ページ)

さしものゲッべルスも身内が絡むとこんなふうになるのか。笑ってしまった。

ドイツの少年少女がすべてヒトラー・ユーゲントになったわけではないというのもこの本で初めて知った。この戦争の時代にも不良少年少女がいたのである。中流の子弟が非行に走った「スウィング・ユーゲント」と少年労働者層を主とした「エーデルヴァイス海賊団」のふたつのグループだ。特に後者の方が治安を乱す不穏な行動をとったようだ。だが別に思想的背景があるわけでもなく、反戦を旗頭にしているわけでもなく、すぐれた指導者がいるわけでもない自然発生的であるというのが、面白い。ナチ党のもと国民が一枚岩で戦争に向かっている時に風紀を乱す不良少年少女が少なからずいたというのが驚きだ。日本の戦時中にはそんな奴らがいたというのは聞いたことがない。日本だって不良少年少女は当然ながらいたと思うのだが、こんな風にまとまった動きをするとは考えられない。
結局、「エーデルヴァイス海賊団」は厳しい処罰を受ける羽目になったというのだが、うーん、彼らのことがもっと知りたくなった。

ヒトラーの死とナチ党崩壊とともにヒトラー・ユーゲントは消滅してしまうのだが、ベルリン陥落のその時まで徹底抗戦した少年たちが実に痛ましい。
ヒトラー・ユーゲントが残した教訓は今も重い。

(注1)「ヒットラー青年」というタイトルで昭和9年(1934年)2月に日本でも公開されている。双葉十三郎の「ぼくの採点表別巻 戦前篇」に公開当時のものらしい文章が載っていて、これがなかなか面白い。褒めつつも茶化している感じがある。平井正は、この映画を真面目に受け止めているが、双葉十三郎の見方は今で言うオタク的なものだ。全文引用したいほどだが、少しだけ。

「ヒットラー青年」なんて、題が題なので誰でもが、相当コワイものだと思っていたに違いないが見るに及んで、これは仲々面白いぞと膝を叩いて喜んだのも、あながち僕ひとりではなさそうである。(中略)
元々こういう作品であるから、何もムキになって赤とさかさまんじの対立と見る必要はなく、(中略)
ああいうきたならしい街は、映画では昔からとても魅力があるものだ。コンスタンチン・チェットのカメラのよさが、ここにもものを云っている。(中略)
もうひとつ素敵なのはあの不良少女(ロトリユート・リヒター)である。河岸で若者を誘惑するところのすばらしさ。盛り場の人混みの中の彼女のよさ。もし、あんな盛り場で「ちょいと兄さん」なんて、ウインクされたら、ぼくなんか真っ先に転向しちまうだろう。(後略)

えー、こういう映画だったのか。他の人の文章でうかがい知れたものとまるで違うのだが。赤とさかさまんじの映画に可愛い女の子を見つけて萌えてしまうというのは映画ファンの鑑である。この映画、ますます観たくなった。(2011年7月9日 記)



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