「ヒトラー最期の12日間」 破滅への意志

ノンフィクション「ヒトラー最期の12日間」2002年 ドイツ ヨアヒム・フェスト著 鈴木直訳 岩波書店 2005年6月21日第1刷発行 2005年7月11日第3刷発行
2011年7月2日(土)読了

この前読んだ「ヒトラー最期の日 50年目の新事実」という本が、ちょっと物足りなかったので同じ時期のヒトラーを描いた「ヒトラー最期の12日間」を買って読んでみた。こちらの方が面白い。前の本は、やたらとヒトラーの死因にこだわったり、頭蓋骨発見を謳ったりする割に腰砕けだったが、こちらはもう少し広い視野でとらえているので当時のヒトラーが置かれている状況がより明確で分かりやすかった。

ただ、この本で使用される訳語に少し違和感がある。通常、「総統地下壕」として訳される単語がここでは、「地下要塞」となっている。訳者のあとがきによると、内部構造や規模から地下壕というような生易しいものではなく、「地下要塞」とした方が実態に近いという考えのもとにこうなったらしい。それは訳者の自由だと思うが、この前まで読んでいた本でやたらに狭くてひどい環境の地下壕というのが強調されていたのでそれが印象的で脳内で変換するのに苦労した。それと、要塞というとどうしても「ナヴァロンの要塞」だの「荒鷲の要塞」だのを思い出してしまう。
他にも「総統官邸」は「首相官邸」になっているし、ヒトラーの愛人で後の妻である「エヴァ・ブラウン」は「エーファ・ブラウン」になっている。外国人の名前を日本語で表記する場合、正解はないのだがやっぱり慣れないと変な感じ。

先日、「日本のいちばん長い日」を読んだので、どうしても日本とドイツの終戦を比較したくなるのだが、この本を読むとつくづく、日本は8月15日に戦争を終えて良かった、と痛感する。天皇の聖断のおかげである。とにもかくにも政治も社会もまだ一応それなりの形を保っている時に止めたのは幸運である。
この本の中のドイツのヒトラー政権はもはや政治も軍事も崩壊していてまさに断末魔だ。首都ベルリンは地獄絵図と化し、阿鼻叫喚の惨劇が至るとこで起きていた。もしも日本が本土決戦をやったらこれに近い状況になったのではないか、と想像する。
ベルリンに侵攻したソ連の赤軍は暴虐の限りを尽くし、数知れない女性がレイプされた。ベルリン市民の間に略奪が横行し、その略奪者を捉えて即刻処刑する行為も日常的だった。
ゲッべルスは通告を出す。「総統の命により、15歳以上、70歳以下のすべての男子は応召義務を果たさねばならない。臆して防空壕に隠れている者は、軍法会議にかけられ、死刑の処せられる。」
また、4月22日以降は、家庭内の料理用電力使用に対して死刑が適用された。
この恐るべき状況を淡々と冷静に描いているのがこの本の特徴である。大げさな感情表現などはまるでないが、この時期に起きていることが凄まじいことばかりなので十分に衝撃的である。

本の帯には、「ヒトラーをはじめてここまで人間的に描いた衝撃の歴史ドキュメンタリー」とあるが、あまり人間的に描かれているとは感じられなかった。むしろヒトラーという名の怪物を描いていると感じた。
作者は、ヒトラーを分析しているのだが、これが非常に興味深かった。ヒトラーを突き動かしていたのは、破滅への意志であった、と作者は言う。戦争目的のない戦争、破壊のための破壊、征服のための征服、その果てにあるのはただ虚無あるのみ。
敵のみならず、自国であるドイツをも焦土とするため都市や施設の破壊を命令したというヒトラーが本当は何を考えていたかはもはやだれにも分からないが、仮説を立てることはできる。その点でヒトラーの破壊衝動に言及したこの本はとても面白かった。

(追記)この本でもヒトラーの生存説がいくつか取り上げられているが、とりわけ興味を引いたのは他ならぬスターリンが、「ヒトラーはUボートで日本に逃亡した」という見解を示したこと。そうか、ヒトラーは日本に逃げたのか。このネタで誰か小説を書かないかな。それとももうあるか?

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