「NHKスペシャル未解決事件 グリコ・森永事件」

テレビ(ドラマ+ドキュメンタリー)「NHKスペシャル 未解決事件 グリコ・森永事件」制作:NHK 脚本:田子明弘 演出:池添博 大野秀樹 出演:上川隆也 大杉漣 池内博之 国分佐智子 石丸謙二郎 升毅 眞島秀和 鶴見慎吾 宅麻伸 ナレーション:伊東敏恵
2011年7月29日(金)19時45分~21時 7月30日(土)19時40分~20時55分 21時10分~22時25分放送・鑑賞 NHK総合テレビ

NHKスペシャルが新しくスタートさせた「未解決事件」というシリーズの第1弾。二夜連続の三部構成でかなり力を入れてきたのが伝わって来る作品で大いに期待して観た。
なかなか面白く作ってあって楽しく観たが、不満に思う部分も多かった。

ドラマとドキュメンタリーの二本立てという構成と前もって聞いていたのだが、思ったよりもドラマ部分が弱いと感じた。結構、力のこもった演出と演技でそれなりに見応えがあるのだが、途中で度々、伊東敏恵のナレーションとともにドキュメンタリー映像が入り込んでくるので妙に気が削がれてしまい、ドラマに身が入らない。ドラマにドキュメンタリーを混入させる手法がどうもしっくりいってないので、どちらかにきちんと絞ってじっくり見せてもらいたかったという思いが募る。これでは、単にキャストが豪華なだけの再現ドラマにすぎず不完全燃焼もいいところである。ただ、それでも事件そのものに対する興味から最後まで飽きずに観てしまった。
結局のところ、ドキュメンタリー主体に構成された第三部「目撃者たちの告白」が一番面白かったということになる。

そもそも「グリコ・森永事件」という事件自体はありふれた企業恐喝の一つにすぎないと思う。ただ、「かい人二十一面相」と名乗る犯人のパフォーマンスによって眩惑されてとんでもなく斬新な重大事件になってしまったということなのではないか。「劇場型犯罪」という言葉がこれほど的確に当てはまる事件もない。

この作品のドラマ部分は、主に新聞記者の視点から作られている。珍しいことに新聞も読売だの朝日だの毎日だのと実名だし、登場人物の新聞記者や刑事たちも実名である。この辺はNHKの気合の入り方を感じるところだ。
それは結構なのだが、新聞記者視点からだとどうしても新聞記者を美化して描きがちになり、やや白々しい思いにとらわれる。彼らの苦悩も事実なのだろうが、当時のマスコミのやけにはしゃいだ雰囲気ももっと出しても良かっただろう。「かい人」の脅迫状を送り付けられて一番喜んでいたのは彼らなのだから。
作品的にシリアスに作られているが、この同じストーリーでドタバタ喜劇にすることも十分可能である。自己顕示欲が強くユーモアのセンスもある犯人、それに振り回される警察、はしゃいで煽るだけ煽ったマスコミ、この三者が絡み合う爆笑喜劇だ。

ドキュメンタリーの第三部が面白いというのもその意味合いである。このパートを観ると、「かい人」がつかまらなかったのもやむなしという気がする。別に「かい人」が天才的犯罪者なのではなく、対する警察の方が失策続きで無能すぎるという印象だ。要するに「かい人」はその無能と度重なる幸運に救われたのではないか。
警察内部の縄張り争い、警察上層部と現場の刑事たちとの齟齬、連絡の不徹底、といった負の要素が連鎖していて、このような特殊な犯罪に全く対応できないというのが、関係者からの取材で浮かび上がって来る。
当時の警察上層部の人間が、今、インタビューに答えても言いわけにしか聞こえない。だが、その言いわけを得々として繰り返すくだりが実に何とも面白い。この辺はドラマには出せない面白さだ。

ドラマだと失策続きの捜査本部をしり目に天才的頭脳と卓越した捜査能力を持つ杉下右京のような刑事が現れて、事件は一気に解決する展開になるのだが、現実にはそんな刑事はいないのである。まことに残念なことである。

犯人側からの電話の内、あの子供の声のテープに着目して再検証して新しい仮説を出しているところが目を惹いた。子どもは複数いたのではないか、というものであり、非常に興味深い。
140通もの「かい人」の脅迫状からも何か出てこないものだろうか。これだけの文章を書き、執拗に送って来るというのはどんな人物なのか。

作品的にはやや疑問の残るところもあるが、今後も続くらしいこの「未解決事件」に期待しておこう。

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