「ヒトラー最期の日 50年目の新事実」 羊頭狗肉の頭蓋骨

ノンフィクション「ヒトラー最期の日 50年目の新事実」1995年 エイダ・ペトロヴァ&ピーター・ワトソン著 藤井留美訳 原書房 1996年10月10日第1刷
2011年6月27日(月)読了

ヒトラーの頭蓋骨発見!
ロシアで発見された頭蓋骨が語る壮絶な死の瞬間とは?
ベルリン地下壕での最期の日々を再現し、
ヒトラーの隠された本性と死の謎を明かす迫真のノンフィクション。
ヨーロッパ各地で大ベストセラー!(帯より)

面白そうなので買ってみた。ヒトラーの最期については通り一遍の知識しかなかったので興味津々で読んだ。期待にたがわず、実に面白い本だった。ただし、前半だけは。後半になると妙な方向に話が進み、ラストに至っては、拍子抜け腰砕けでガッカリの羊頭狗肉の典型のような印象になる。大変、残念至極である。

面白いところ、いくつか。
ベルリンにソ連の赤軍が先に侵攻したのは連合国軍との取り決めによるものだが、何故、連合国軍がベルリンにさほど固執しなかったのか、その理由が面白い。アメリカを始めとする連合国軍はヒトラーはベルリンにはおらず、アルプスにあるという国家要塞におり、反攻の時を狙っていると信じ切っていたからだ。ところが後になってみると、そんな要塞はどこにも存在しなかった。ごく一部の狂信的なナチ党員の頭から生み出された妄想にすぎない。それを真に受けて鵜呑みにしてしまった、というのだ。
これと似た話を最近読んだ。ジョージ・W・ブッシュの「決断のとき」という本だ。イラクのサダム・フセインが、大量破壊兵器を保有していると確信したアメリカを始めとする多国籍軍がイラクに攻め込んだが、結局そんなものはどこにも存在しなかった。各国情報機関からの情報をみんなが真に受けて鵜呑みにしてしまったのだ。
60年たっても同じことやっているものだ。ヒトラーやフセインのような独裁者の心理は読み切れないということなのだろうか。というよりも、彼らを警戒するあまり過大評価したということなのだろう。ヒトラーなら、フセインなら何かとんでもないことをやるだろう、という恐れと期待がそこにある。

妄想と言えば、ヒトラー生存説がいくつか紹介されていてそれも面白かった。ヒトラーの死が発表された直後から始まり、90年代まで続いたという「ヒトラー目撃談」が実に何とも可笑しくて笑ってしまった。
スイスアルプスで羊飼いをしているのを見た、なんてのは特にツボに嵌った。ハイジというの名の女の子と一緒に暮らしていたらもっと良かったのだが。
クリーニング屋の経営者がヒトラーだ、という報告もある。その理由。ドイツのV-1爆弾の話が出るたびにその男は激昂するし、見せてくれたシェパードの写真が、ヒトラーの愛犬ブロンディにそっくりだったから。
こういう話を読むと、みんなヒトラーに物凄く思い入れがあったんだ、ということが分かる。憎むべき敵であると同時にアイドルみたいでもある。
こんなに目撃されているのはもう一つ理由があると思う。それはヒトラーの顔が世界的に知れ渡っているとことである。さすがに映像の世紀と呼ばれた20世紀に生きた人間ならではのことである。ヒトラーが死んだ(とされる)1945年はまだテレビは実用化されていなかったが、新聞や映画というメディアは成熟していた。新聞の写真で、映画館のニュース映像で人々は彼の顔を既に「目撃」し、記憶したのだろう。それがのちの数多くの現実世界の目撃談になっていく伏線なのだと思う。もちろんその目撃の全部が、妄想か誤解か虚言なのではあるが。
そういえば、ヒトラーではないが、ナチの元高官が自分の家の近所に住んでいるのを発見したアメリカ人少年がその男と心の交流を持つという心温まり血も凍る「ゴールデンボーイ」という傑作をスティーヴン・キングが書いていたのを思い出した。

こんな感じで面白いところもあるのだが、後半はまるで駄目だ。帯にも書かれていていわばこの本の「売り」であるところのヒトラーの頭蓋骨発見という話題がどうにも肩透かしなのである。
ソ連崩壊によってそれまで非公開だったものが世に出るようになったのは結構なことではあるが、これはどうも頂きかねる。専門家の鑑定で80パーセントの確率でヒトラーの頭蓋骨である、とわかったとあるがさんざん引っ張ってきて結局80パーセントか。断定できないのか。それじゃあ、羊頭狗肉と言われてもしょうがない。
ベルリンの地下壕にソ連のスパイがいた、という話も出て来るのだが、当人は死んでいるし、未亡人から話はまだ聞いていなしでこれまた肩透かしでガックリ。
また頭蓋骨がらみでヒトラーの死因の話も出て来るのだが、銃による自殺か毒物による自殺か銃と毒物の併用による自殺かいろいろ検証するのだが、これもハッキリとは断定できず。そのわりにくどくど書いているので読む方としては、「どうでもいいよ」という感じが強まる。
さらにヒトラーの死因に関して第4の説を唱えた「ヒトラー検死報告 法医学から見た死の真実」(ヒュー・トマス著)という本を何故か執拗に批判している。この本は読んだことがないからなんとも言えないが、こうやっつけられているのを見ると無性に読みたくてたまらなくなってくる。

ソ連で発見されたというヒトラーのプライベート写真やヒトラー自筆の風景画などはあまり他の本ではないものなので貴重ではあるが、頭蓋骨や死因の話をさんざんした後に突如として画家としてのヒトラーの話が出て来るのは違和感がある。せっかく見つかったんだから付け加えておけ、というやっつけ仕事みたいだ。

と、色々文句もあるが、今まで知らなかったことがここで知ることができたりして結構ためになることもあったのでこれはこれで良しとするべきか。

(追記)今、検索してみたらヒトラーの頭蓋骨(とされるもの)は、2009年にDNA鑑定で女性のものだと断定されたそうである。
全否定。
この本の著者の感想が聞きたい。

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