「決断のとき 上下巻」 だれも嘘をついていない。全員が間違っていただけだ。

ノンフィクション(自伝)「決断のとき 上下巻」DECISION POINTS 2010年 アメリカ ジョージ・W・ブッシュ著 伏見威蕃訳 日本経済新聞社 2011年4月22日1版1刷 
2011年5月28日(土)読了

「北朝鮮の核を放置すれば、日本の核武装を止められない」と私は中国に告げた。(下巻の帯より)

この本を買うつもりは全くなかったのだが、つい魔がさしたというか、書店で下巻の帯の文章を読んだら、どうしても買って読みたくなってしまった。この帯にこの文章を載せた人の狙いがまんまと当たったというわけだ。偉い!
ただ、残念ながら上下巻全ページ読んでもこの文章より以上に詳しいことはなかった。まあ、アメリカの大統領が中国を恫喝するのに日本を引き合いに出す、ことがあるのが分かったのが収穫か。どうやら、アメリカも中国も北朝鮮なんかよりもよっぽど日本に対して脅威を感じているらしい。何かとんでもないことをしでかしそうな国なのか、日本は。それって喜んでいいのか、悲しんでいいのか。

この本を書くのを楽しんだので読者も楽しんでいただけたらいい、と著者は言っているが、その言葉通りに非常に楽しく読むことができた。上下巻合わせて約700ページという比較的手ごろな長さだったのも幸いして二日程で読んだ。
実は、政治家それもついこの間まで現役だった人物の伝記を読むのなんて初めての経験だった。もっとも伝記といっても幼少のころからの出来事を微に入り細に入り延々と執拗に書いたものではなく、非常にコンパクトにまとめてあるのが好印象である。何しろ、著者が大統領に出馬するまでの人生が最初の二章分(トータル105ページ)に収められているのだ。ジョージ・W・ブッシュのプライベートに全くと言っていいほど興味がない僕にとってはまことにありがたかった。残りのページすべてが二期務めた大統領の「仕事」の内容について書かれていて余計な脱線がないのがこれまた結構であった。

それにしてもブッシュ大統領在任中の8年間というのは、なんとも重大な事件が多発したとんでもない期間だったことか。9・11同時多発テロ、アフガニスタン侵攻、イラク戦争、リーマンショックによる金融危機、ハリケーン・カトリーナのもたらした甚大な被害、そのいずれもが独立して一冊ずつの本に書けるような大変なことばかりである。
それらを一気に上下巻にぶち込んだものだから、一つ一つが短く感じられやや物足りなさもある。著者はプロの小説家ではないので、技巧を駆使して盛り上げることもなく淡々としている感じも否めない。また、著者はノンフィクションライターではないので、一つのテーマを多方面からの取材によって多角的に捉えるなんてこともない。あくまでも、大統領としての自分が体験したこと、知りえた情報についてのみ書いているだけである。その知りえた情報だってすべてを書けるわけでもなかろう。そういう弱点は当然あるのだが、それでも著者でしか書けないことの数々を読めるということは大いなる収穫だし、とても楽しめた。だからといって大統領として高く評価するわけにはいかない。

ジョージ・W・ブッシュ大統領ほど激しい非難にさらされた大統領も近年まれではないか。それらの非難に対して自分自身でどのように反論しているのか、を確かめたいというちょっと意地悪な気持ちも僕の中にあった。
確かに自己弁護、自画自賛が鼻に着くところも見受けられるが、案外率直に自らの間違いを認めることもあり、誠実なイメージも湧いてくる。その辺、計算づくだとしたら、かなりしたたかである。
あれだけ大騒ぎしたイラクの大量破壊兵器が結局どこからも見つけ出すことができなかったことに対しても、「間違っていた」とはっきり認めるが、いや、間違っていたのは自分だけではなく、世界中の情報機関すべてだし、アメリカ以外の国もみんな間違っていた、と堂々と主張している。なかなかどうして大したものである。アメリカ大統領っていうのは責任取らなくていいらしい。アフガニスタンもどう抗弁しようと結局、「泥沼化」だし、ブッシュの負の遺産は大きい。

大統領が出した法案を議会が可決するように様々な根回しするのが描かれていて興味深かった。国家の最高指導者が、他党である民主党と妥協を探るべく画策するのみならず、自党の共和党の中で法案に賛成か反対かで揺れている議員に対して大統領自ら電話をかけて説得するなんて涙ぐましい限り。アメリカ大統領ってもっとドンと構えて命令だけしているのかと思ったら全く違う。大変な仕事だ。あたりまえだけど。

イラク戦争開戦にむけてブッシュ大統領がいけいけどんどんの開戦派なのに対して軍人上がりのパウエル国務長官が、開戦に反対の立場だというのが面白い。これぞ閣内不一致。軍人や元軍人が戦争を始めることに慎重な態度をとるというのはたまに聞く話である。戦争の大変さ、それも戦争を終えることの大変さを知っているからだろう。やるなら大規模な部隊を投入し、短期で終結させる、というのが理想だが、現実はそう簡単にはいかない。
今度は、パウエルの本を読んでみたい。

この本が書かれた時点では行方のつかめなかったウサマ・ビンラディンはアメリカによって殺され、新たな局面を迎えている。アフガニスタンもイラクもまだ先は見えない。この本で書かれていることの多くはまだまだ決着がついていない。この本の続きは何年か後にオバマ大統領が書くことになるだろう。その時、アメリカは世界はそして日本はどうなっているのだろうか。
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