「日本のいちばん長い日 運命の八月十五日 決定版」 

ノンフィクション「日本のいちばん長い日 運命の八月十五日 決定版」1965年ー1995年 半藤一利著 文藝春秋 1995年6月25日第1刷
2011年6月23日(木)読了

岡本喜八監督の映画「日本のいちばん長い日」の原作。映画は随分前に観た記憶があるが、原作を読むのはこれが初めて。とても読みやすくて面白い良く出来たドキュメントである。

昭和20年7月28日、日本に対しポツダム宣言がなされてからの日本の政界・軍部 の動き簡潔にまとめたプロローグから始まり、広島・長崎への原爆投下を経て、8月14日正午に行われた最後の御前会議の中で、天皇の聖断が下る。この時より24時間にわたる運命のドラマが繰り広げられる。一時間を一章に割り当てての全二十四幕のドラマである。
一番特徴的なのは、政治家や軍関係者に焦点を絞った話にしていること。民間人は、放送局や新聞社の人間くらいで所謂市井の人々と言った存在は出てこない。あくまでもこの戦争を率いてきた人々の最後の身の処し方を見つめているのである。

この作品では特に陸軍の青年将校たちの起こしたクーデターについて詳細に描かれているのが非常に興味深い。聖断が下り、全軍が唯々諾々とそれに従ったわけではないのである。徹底抗戦を叫び、ついには近衛師団長を惨殺せしめ、玉音放送を阻止しようとする彼らの行為はまさに狂気の沙汰ではあるが、読んでいくうちに共感じみた気持ちも湧いてくる。作者も彼らを美化しているわけではないが、どこか慈しんでいるようにも思える。
クーデター計画の首謀者の一人である畑中少佐に仲間になるように説得された井田中佐が、
「畑中、承知したよ。やれるだけやってみよう」と返事をすると、

畑中少佐はぱっと表情を明るくした。にっこり笑った彼の顔には満身の喜びがあふれていた。すっかり日焼けした顔に白い歯が印象的である。握手は温かかった。井田中佐は疲れもとけていくような気がした。明日になれば新しい日本がはじまっているか、さもなければ、われわれは死んでいるだろうと中佐は思った。(158ページ)

というくだりがまさに印象的。これだけ素直に喜びを表現できる純粋な人間がなぜ凶行に走るのか。人間の不思議さだ。鈴木邦男風に言えばこれも「仲間殺し」なのだろう。

阿南陸相の最期も実に事細かく描かれている。実に潔く美しくさえある最期だが、これほどの覚悟があるのならば何故生きて戦後の後始末に力を注がなかったのだろうかと思う。美しすぎるものは危険だ。

また御前会議での天皇の聖断が下った際、一同に会した閣僚たちが号泣したというくだり。

悲痛な空気は、やがて慟哭に変っていった。たしなみを忘れて子供のようにおいおいと泣きだすもの、両の拳をくだけんばかりににぎりしめて耐えるもの、小さな椅子からずるずるとすべり落ち、絨毯に膝をつき、床にくずれてこえをあげるもの。地下十メートルの部屋の小さな明かりがそれらを照らしだした。(49ページ)

これには呆れた。政治と軍事の指導者たちのこのありさま。日本男子たるもの人前では泣かない、はずじゃなかったのか。最終的には天皇に甘え、頼ってしまうこの無責任さ。泣きたいのは国民だ。

玉音放送をめぐるさまざまなやり取りもいろいろと面白い。玉音放送の録音盤がまさにぎりぎりのタイミングでクーデターの将校側に渡らなかったこと。また、将校たちが自分たちの主張を放送させろと放送局員に迫ったこと。
もしも、将校たちが玉音放送を阻止し、さらに自分たちの主張を放送したら、歴史はどう変わっていたか考えると実に興味深い。

首相官邸を焼き討ちする横浜警備隊長佐々木大尉という人物はどうにも良く分からない不思議な人物だ。兵士と学生引き連れて何がやりたかったのか。どこまで本気だったのか。混乱期には色々な人が出て来る。

本の中で何回か8月14日夜から翌15日未明にかけてのアメリカ軍の最後の空襲が高崎・熊谷・小田原方面になされていたという記述がある。個人的にこれに心ひかれた。僕の父は、このうちの熊谷空襲に遭遇している。当時、熊谷の工場に勤務していたが、空襲が始まり文字通り命からがら逃げ出して、一晩中さまよったということだ。空襲が終わりなんとか落ち着いたときに聞いたのが、ラジオから流れる玉音放送だったそうだ。
この本によると、「航空攻撃を中止せよ」という命令が下ったのが、15日の午前6時14分である。それまでは徹底して攻撃したわけだ。恐るべし、アメリカ軍。

読み物としても面白いし、色々と知らなかったことも教えられたし、あの夜、炎に包まれた熊谷の町を逃げまわった父にも思いをはせることができる貴重な本であった。
8月15日に父が空襲で死んでいたら、当然僕は生まれてこなかったわけだし、この本を読むこともこのブログを書くこともなかったわけだ。「運命の八月十五日」というサブタイトルは僕にとっても無縁じゃないどころか大いに関係がある。人生は面白い。







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