「ムーミンパパ海へいく」 おもしろいぞ。やけにおもしろいぞ。

児童文学「ムーミンパパ海へいく」1965年 フィンランド トーべ・ヤンソン作・絵 小野寺百合子訳 講談社 ムーミン童話全集7 1990年12月5日第1刷発行 1996年9月2日第10刷発行
2011年5月2日(月)読了

第7作。
ムーミンパパが家族を引き連れて、ムーミン谷に別れを告げ、離島にある灯台の灯台もりになる、という話。
ムーミンパパは、何の準備も下調べもなしにこの無謀な行動に出たため、島に着いた途端に様々な問題が噴出する。何しろ、前任者との引き継ぎもないので灯台の扉の鍵のありかも分からないし、そもそも、灯台の明かりのつけ方すら知らないというお粗末さ。果たしてムーミン一家はどうなるのだろうか。

突如として一念発起した父親が家族を連れて、住み慣れた土地を捨て見知らぬ新天地に赴く、というこの手の話は結構ある。映画「モスキート・コースト」なんていう不快な傑作もあるし、テレビドラマでは「北の国から」あたりが有名。スティーヴン・キングの「シャイニング」も少し設定は違うが、類似作と言えるか。いずれも出発点は父親のエゴなのだが、それがいい方に向かうと、感動作になり、そうではないととんでもないことになる。

この「ムーミンパパ海へいく」もとんでもない方である。もうこれはホラーと言っていい。平穏な日常を捨ててやってきたのは、過酷な自然環境の土地であり、ムーミン一家は次第に狂って行く、というストーリー展開が実に恐ろしい。
まあ、すべてムーミンパパが悪いのである。中年になって自分の人生をリセットしてみたいというのは僕なんかも常に考えることである。普通は考えて終わってしまうのだが、ムーミンパパは実行してしまう。ところが、根本的に空想家にすぎないので、現実的な緻密な計画などは持ち合わせていない。非常に場当たり的であり、あっさり破綻してしまうともはやどうすることも出来ない。その辺のムーミンパパの行動と心理が事細かく書き込まれているので実にリアリティーがある。
一方、ムーミンママもムーミンパパとは少し違ったタイプの空想家であり、あまりの過酷な現実に直面すると現実逃避してしまう。自分の描いた絵の中に隠れてしまう、という幻想的なシーンがあり、ムーミンママの心理がよく表現されている。もっとも怖いのはこのくだり。

ムーミンママは、テーブルのところにすわってわらいました。
「おもしろいぞ。やけにおもしろいぞ。」(187ページ)

あのやさしいムーミンママがこんな言葉遣いをするというのが衝撃的で、心のバランスが崩れてきているのを示唆する名シーンだ。

ムーミントロールも心乱れて、ムーミンパパに反発する気持ちが芽生える。

「ちぇっ、おやじがなんだってんだ。カレンダーにXじるしをつけるんだって!それからどうする気だね。」(215ページ)

ムーミントロールも様々な出来事を経験して心のバランスを失いかけるのだが、うみうまやモランとの出会いから何かを学び成長していく。この辺の揺れ動く心理状態の描写がこれもまた事細かくて上手い。
ばらばらになっていた家族が、試練を乗り越えて絆を取り戻すクライマックスの展開が感動的だし、ミステリ風のサプライズも面白い。途中までは暗くて陰惨でホラーみたいなのでどうなる事かと思うのだが、ラストまで読むととても後味良く、「良い本を読んだ」という満足感が残る。

それにしても、ちびのミイがいつのまにかムーミン家の養女になっていたとは驚きである。どういう経緯でそうなったかはまるで書かれていない。でも、養女になってもちびのミイはちびのミイのままである。心のバランスが崩れるなんてありえない。自由奔放で言いたい放題やりたい放題で実にたくましいし、他人の気持ちを読む鋭い感受性もある。これは最強キャラだ。この物語での暴れぶりも楽しい。



ムーミンパパ海へいく (ムーミン童話全集 7)
講談社
トーベ・ヤンソン

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