「ムーミン谷の仲間たち」 おまえはばかな小さいけものだよ

児童文学「ムーミン谷の仲間たち」1962年 フィンランド トーべ・ヤンソン作・絵 山室静訳 講談社 ムーミン童話全集6 1990年10月24日第1刷発行 1997年6月6日第14刷発行
2011年5月1日(日)読了

第6作。初の短編集。全9編収録。

「春のしらべ」
スナフキンは、一人旅の途中で一匹のはい虫に出会い、名前を付けてあげる。
「ムーミン谷の彗星」「ムーミン谷の夏まつり」とやけにエキセントリックな行動が目立っていたスナフキンだったが、ここでは彼の優しさが発揮されて割合後味が良い。もっとも、基本的な性格は孤独を愛するちょっと偏屈ものであることに変わりはないが。スナフキンがはい虫に自信をつけさせた後のはい虫の態度がちょっと引っかかるあたりも上手い。

「ぞっとする話」
想像力豊かなホムサの心はこわい妄想を生み出していく。
子どもの持つ感受性の鋭さを描いていて面白い。現実と空想の境目がなくなる揺れ動く気持ちが良く表現されている。

「この世のおわりにおびえるフィリフヨンカ」
タイトル通りの作品。傑作。谷崎潤一郎の「病蓐の幻想」の主人公のように災害の妄想に囚われているヒロイン・フィリフヨンカの不安感が実に迫真的に描かれている。
このヒロインって実は作者のトーべ・ヤンソンのことではないだろうか。「ムーミン谷の彗星」「ムーミン谷の夏まつり」と災害に襲われるというシチュエーションを繰り返すということは、作者自身もまたそれを恐れているのではないか。だからこそ、こんなに真に迫ったものが描けるのではないか。
この作品では、単に妄想ではなく、実際にフィリフヨンカの身に災害が降りかかる。そのことによって、フィリフヨンカは、解放されるという展開が感動的でもあるし、恐ろしくもある。

「もうわたし、二度とびくびくしなくてもいいんだわ。いまこそ、自由になったのよ。これからは、どんなことだってできるんだわ。」(93ページ)

「世界でいちばんさいごのりゅう」
ある日、ムーミントロールは偶然、小さなりゅうを捕まえる。
少年が、動物(もしくは異星人、怪獣、ロボット、美少女など)と出会い、それをペットとして可愛がるうちに心の交流が深まって行く、という話は、「小鹿物語」から「E・T」「崖の上のポニョ」に至るまで山ほどあるが、この作品はそのパターンかと思わせて見事にひねって見せている。
ムーミントロールが、りゅうをどんなに好きになり世話しようと思っても、相手がちっともなつかないでかみつくばかり。他の人でも同じだが、唯一、スナフキンだけはりゅうが心許してなつくのである。それを見たムーミントロールは、ある決断をする。
これは悲しい話である。動物感動ものとしては異色ではあるが、これを恋愛に置き換えたら別に普通のことかもしれない。こちらが相手にどんなに好意を抱いていたとしても、相手が同じようにこちらを好きになる保証はまるでない。それは、大人だったら嫌っていうほど経験・理解している。でも、それを子ども向きの物語でやるとは、トーべ・ヤンソンは容赦ない人である。傑作。

「しずかなのがすきなヘムレンさん」
遊園地で入場券にパチンパチン、とはさみを入れる仕事を続けたヘムレンさんは、いつか年金をもらったら、誰ともかかわらない静かな生活を願っていたが、ある事態がヘムレンさんの人生を変えてしまう。
他人とのコミュニケーションが苦手で内にこもり孤独で寡黙で空想好きなキャラ、というのはトーべ・ヤンソンのお好みのキャラのようだ。フィリフヨンカあたりになるとそれが「狂気」の域に入り込んでいるのだが、このヘムレンさんはそこまでいかない。ひょんなことから子どもたちと関わることになって、自分の想像していたのと違う人生を歩むことになるのだが、全体的に穏やかなムードであり、ホッとさせられる。

「目に見えない子」
世話をしてもらっていたおばさんに始終皮肉を言われて育った女の子は、いつしかそのすがたが目に見えなくなってしまった。おしゃまさんからその子ニンニを預かったムーミン一家は、見えるようにしようと様々な努力をする。
児童虐待の話である。それも肉体的暴力ではなく、言葉による暴力がいかに子どもの心を破壊するかをストレートに表現している。ホラーである。実に現実味のあるホラー。
ニンニは最後にはムーミン一家によって見えるようになるのだが、その過程もよく考えられていて上手い。傑作。
ちびのミイのセリフが印象的。

「それがあんたのわるいとこよ。たたかうってことをおぼえないうちは、あんたには自分の顔はもてません。」(181ページ)

「ニョロニョロのひみつ」
ムーミンパパは、ムーミンママという妻とムーミントロールという息子がありながら、ある日突然、家を出た。ムーミンパパは、もう随分前からニョロニョロに興味を抱いていて、謎だらけの彼らのことをもっと知りたくなったのだ。ニョロニョロと行動を共にしたムーミンパパは、やがてニョロニョロのひみつに触れることになる。
既婚者である中年男を主人公にするというまったく児童文学らしからぬ作品。でも傑作。中年男のあがきと孤独と甘えを描いて実に身のつまされる。ムーミンパパのしょうもないダメ男ぶりにはほれぼれする。結局、ニョロニョロのことは全く理解不能の存在であるということが理解できただけで、すごすごと家に帰る情けない結末を迎える。でも、何故か幸福感に包まれているところがムーミンパパのいいところ。

「スニフとセドリックのこと」
ある出来事で落胆しているスニフを励まそうとしてスナフキンが、「ぼくのママのおばさんのおこったこと」を話してあげるのだが、あまり機嫌のよくないスニフはやたらに話の腰を折り、矛盾点に突っ込みを入れ、オチを先に話してしかも間違えたりと最悪の態度をとる。怒ったスナフキンは、罵声を浴びせつつも話すのはやめない。
コントみたいな話でスニフとスナフキンのやり取りが実に可笑しい。特に感情的なスナフキンの姿が珍しく興味深い。

「おまえはいつまでたってもおんなじだなあ。まあ、だまれよ。」(236ページ)
「そうしょっちゅう、じゃまするんじゃないよ。」(237ページ)
「おまえはばかな小さなけものだよ。」(240ページ)

「もみの木」
冬眠中のムーミン一家をたたき起したヘムルは、クリスマスがやってくるを大声で怒鳴って知らせた。クリスマスというものを全く知らないムーミン一家は何か大変なことが起きるのではないか、と見よう見まねでクリスマスに対する準備を始める。
もみの木の飾り付けだ、クリスマスプレゼントだ、とやたら大騒ぎではしゃぎまわるヘムルたちと右往左往するムーミン一家の姿から、俗化するクリスマスを皮肉った作品と言える。ドタバタコメディのようで傑作とは言い難いが、暗いイメージのあるトーべ・ヤンソンとしては珍しくユーモア全開なのが好印象。


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