「ムーミン谷の冬」 氷姫

児童文学「ムーミン谷の冬」1957年 フィンランド トーべ・ヤンソン作・絵 山室静訳 講談社 1990年10月24日第1刷発行 1996年9月2日第12刷発行
2011年4月30日(土)読了

第5作。
ムーミン谷のみんなが冬眠中のある日、ムーミントロールはただひとり目覚め、冬の世界に出ていく。そこはすべてが初めて体験することばかりの世界だった。

ムーミンパパ、スナフキン、スノークのおじょうさんといったレギュラーメンバーをお休みさせて、新しい様々なキャラを登場させるという試みである。大胆だと思う。お馴染みになったキャラでストーリーを作った方がよっぽど楽なはずなのにあえて難しいことにチャレンジするトーべ・ヤンソンの作家的野心には感心する。しかも、それが成功している。傑作。

フィンランドという北方の寒い国に生まれ育った作家ならではの作品である。冬の寒さ、孤独、悲しみがひしひしと伝わって来る。もちろん、冬ならではのほのかな楽しみも。
ムーミントロール自身が、雪を見るのもオーロラを見るのも初めてという設定にしているので、この世界の冬を知らない読者もムーミントロールと同じ立場で冬を体感できるというのが実に上手いと思う。とにかく、冬の情景描写が素晴らしいし、その冬に生きる様々な生き物の描写もいい。
冬の寒さのせいなのか、冬の世界の住民たちはほとんどが気弱で人見知りで恥ずかしがりやで孤独である。
みんな、いろんななやみがあるんだなあ。とムーミントロールが思う通りだ。(125ページ)
彗星や津波のような災害は起きないが、それでも生きていくのはこんなにも大変なのだ、ということを痛感させられる。
そんな暗い作品なのだが、唯一、ただひたすら明るく活発で自分で楽しみを見つけてエンジョイしてしまうちびのミイの存在のみが救いである。ミイがいなかったら、本当にただ暗いだけになっていただろう。

この作品の中で一番心を打たれるのはやはりヘムルのヘムレンさんのエピソードだろう。とても明るく元気で世話好きでやさしい。どっから見てもいい人。でも、冬の住民たちからは疎まれ嫌われている。しかも、まずいことに当の本人はそのことに気づかずみんなに好かれていると思い込んでいる。空気の読めない人。
同じ明るい性格でもちびのミイは、自分が楽しめればそれでいいというタイプでヘムレンさんとはまるで違う。他人の世話を焼こうとはこれっぽっちも思わない。だから、別に嫌われもしない。
ヘムレンさんのようなキャラを創り出しただけでもこの作品は成功だろう。善悪二元論では片づけられない複雑な人間関係の綾をこのキャラが巧みに表している。いい人だけど、いやいい人だから仲間外れにされる人、いるなあ、こういう人。彼に「真実」を告げるかどうか、ムーミントロールが悩む展開も凄く共感できる。
ヘムレンさんのエピソードは、思いもよらない形で幕を閉じるのだが、この締め方も実に上手いと思った。めでたし、めでたしのようでもあるし、この先どうなるか心配でもあるような。そのバランスがいい。でも、やっぱり、ヘムレンさんとサロメちゃんとめそめそくんがそれからどうなったか知りたいとは思う。

世にも恐ろしい氷姫のエピソードも面白かった。氷姫がやってきたら、つきあってみたいと思うムーミントロールは本当にいい性格している。(65ページ) 
氷姫に見つめられて死んでしまった子りすについてムーミントロールが言ったセリフ。

「すくなくともかれは、死ぬまえにうつくしいものを見たのだ。」(73ページ)

カッコよすぎ。




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