「ムーミン谷の夏まつり」 スノークのおじょうさんはなぜ服を着ないのか?

児童文学「ムーミン谷の夏まつり」1954年 フィンランド トーべ・ヤンソン作・絵 下村隆一訳 講談社 ムーミン童話全集4 1990年8月24日第1刷発行 1997年2月7日第12刷発行
2011年4月29日(金)読了

第4作。前作「ムーミンパパの思い出」は、タイトル通りムーミンパパを主人公にして一世代前を描くといういわゆるスピンオフ作品であった。今作は、元に戻ってムーミントロールを始めとするレギュラーメンバーの話になっている。
ただし、のんびりほのぼのとした話ではない、「ムーミン谷の彗星」に続き、またしても未曾有の大災害がムーミン谷を襲うのである。それは津波だ。(注1)
小島にある火山が噴火して、海から波がムーミン谷に押し寄せ、全てを押し流してしまう。ムーミン家も水没するが、流れてきた劇場にみんなで乗り移って生活することになる。
というストーリーなのだが、2011年4月にこれを読むとなんだか複雑な気持ちになる。東北大震災の津波映像をさんざん観た後だからである。物凄くリアリティーがあるようにも思えるし、現実の津波はこんなものじゃないよ、と思ったりもする。もしも、震災前に読んだら、「劇場が津波で流れて来るなんて荒唐無稽なファンタジーだなあ。」という感想を抱いたかもしれない。作家の想像力を凌駕する現実の恐ろしさよ。

同じ災害ものでも「ムーミン谷の彗星」のダークさは、今作には見られない。どちらかと言えばゆるやかなユーモアを随所に感じて楽しく読むことができる。
せっかく劇場に住んでいるだからと、ムーミンパパの台本によるお芝居を演じることになる顛末もなかなか愉快だ。水上の劇場に津波の被災者たちがボートに乗ってやってきて、お芝居を鑑賞するくだりはちょっと感動する。

この本筋以外にもスナフキンをめぐる話がありこちらも面白い。スナフキンが、天敵である公園番をひどい目に合わせるというストーリーで、これを読むと本当にスナフキンという奴はひどい奴である。
スナフキンは、自由人で放浪の旅人である。と言うことはつまり、定住する場所を持たないホームレスということだ。おそらく、過去には公園などで寝泊まりしようとして、公園番やおまわりさんとトラブルを起こしたのではないか。そうでも考えないと、ここまで公園番を憎む理由がわからない。
それにしても何という自分勝手な奴だ。気に食わないからと言って他人を痛めつけ、「~するべからず」の立て札すべてを破壊するなど、言語道断の犯罪者である。アニメで観て抱いていたイメージとまるで違う。やっぱり原作をきちんと読んでおくものだなあ。
でも、トーべ・ヤンソンは彼を断罪しない。こういうアウトサイダーも社会にはいてもいい、という立場なのであろう。意外なところから救いの手を差し伸べる者がいてスナフキンは罪を問われずに済む。このへんも実に泣かせるところ。

今作の一番のツボはスノークのおじょうさん。とにかくかわいい。特にこんなセリフをムーミントロールに言うところ。

「いっしょにあそばない?」
と、スノークのおじょうさんがいいました。
「わたしがすごくきれいで、あなたがわたしをさらってしまうというあそびをしない?」(25ページ)

なんといういじらしくてちょっといやらしいセリフだろうか。それに対するムーミントロールの答えがまたカッコいい。

「きみがすごくきれいだ、なんてことは、あそびにしなくていいんだよ。きみは、いまだって、ちゃんときれいなんだもの。ぼく、たいていきみをさらっちゃうよ。あしただけどさ。」(25ページ)

もうひとつ、スノークのおじょうさんに関すること。これは、ミーサのセリフ。

「なんでも、知ったかぶりしてさ。スノークのおじょうさんなんか、洋服も着てないじゃないの。」(78ページ)

うわー、言ってしまったかというセリフ。トーべ・ヤンソンの絵ではスノークのおじょうさんだけではなく、ムーミン族はみんな服を着てない全裸生活なのである。一方、スナフキン、ミムラねえさん、ちびのミイなどはちゃんと服を着ている。これは、もう「お約束」であると思っていたが、まさか作中のキャラから突っ込みが入るとは想定外だったので非常に面白かった。
で、何故、洋服を着てないのか、の答えは書かれていない。

あと、もうひとつ驚いたのは、あのニョロニョロがたねから生まれるということ。さすがのちびのミイも知らなかったらしい。たねをまいてから非常に短時間で生まれるというのも凄いことだ。

(注1)どういうわけか、この本では津波という単語は全く出てこなくて、すべて洪水と表現されている。原文に津波という意味を持つ単語がなかったのか。現象的にはどう見ても津波なのだが。
現在は、津波=TUNAMIという単語は世界的に通用する言葉になったようだが、この本が書かれた1954年ごろはまだ普及していなかったのか。
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