「ムーミン谷の彗星」 どす黒い世界

児童文学「ムーミン谷の彗星」1946年 フィンランド トーべ・ヤンソン作・絵 下村隆一訳 講談社 ムーミン童話全集1 1990年6月23日第1刷発行 1997年2月7日第18刷発行
2011年4月24日(日)読了

アニメ「ムーミン」は子どものころよく観ていたが、原作を読むのはおそらく初めてじゃないだろうか。この前、古本屋で「ムーミン童話全集」を見かけたのでまとめて買った。まずは1巻目を読んだ。

思ったより暗い話だ。僕の記憶しているアニメはもっとほのぼののんびりしたものだったはずだが、この「ムーミン谷の彗星」はダークな色彩が濃く、ちょっとグロテスクな要素もある特異な小説である。
何しろ、地球に彗星が接近してきて地球滅亡か、という話なのだ。昔のSFによくある「破滅もの」で、マックス・エールリッヒの「巨眼」とか思いだす。アメリカ映画だと「ディープ・インパクト」とか「地球最后の日」なんていうのがあった。ディザスター・ムービーと呼ばれるジャンルだ。それをファンタジックな児童文学でやってみるというのがとても変っている。トーべ・ヤンソンと言う作家は不思議な人だ。

ある朝、ムーミントロールが目覚めると、ムーミン谷に異変が起きていた。

「すべてのものが、どす黒いのです。空や川ばかりではありません。庭も、地面も、家も。みんな、まるでどす黒い、この世のものとおもえないほど、気味わるいようすをしていました。」(36ページ)

「どす黒い」という日本語はなんだか強烈で品がないように感じる。原語のニュアンスはどんなものなのだろうか。
ともあれそのどす黒くなった原因について、自称哲学者のじゃこうねずみは地球に近づいてくる彗星のせいだと言う。それを聞いたムーミントロールは友だちで小さな動物のスニフと一緒に「おさびし山」の天文台に確かめにいくことを決意する。かくして、ムーミンパパとムーミンママに見送られてムーミントロールとスニフは旅に出る。
その旅の過程で様々な危険な目に会ったり、色々な人(生き物?)と出会ったりする。なかでも、スナフキンとは一緒に旅する仲間になる。このあたりは、ピクサーあたりで3Dアニメにしたら、笑いありアクションありの面白いものになるのだろうが、小説の方は何だか全体的なトーンが暗めで淡々としている。そこがいいとも言える。

天文台に着いたスニフが天文学者に尋ねると、

「わしの計算したところでは、八月七日の午後八時四十二分に、地球にしょうとつする。四秒おくれるかもしれんが。」

という答えが返って来る。

「そしたら、どうなります?」
「どうなる? そんなことは、考えたことがないね。しかし、その経過はくわしく記録しておくよ。」(98ページ)

何となく原発推進派の学者みたい。最悪の事態のその先に全く考えが及ばないというのは。

ムーミン谷に帰る道すがら、ムーミントロールはスノークとスノークのおじょうさんと出会う。普通の出会いじゃない。何しろ、スノークのおじょうさんは今まさに食人植物に食べられようとしていたのだから。そこから救い出したムーミントロールはスノークのおじょうさんと仲良くなる。

彗星の影響からか海が完全に干上がってしまい、みんなが竹馬でそこを歩いていくシーンはグロテスクであり、異様な怖さがある。
消えうせた海を見たスナフキンの嘆きのセリフ、

「あのうつくしい海が・・・・・・どこにもない。船あそびも、水泳も、さかなつりもできない。ものすごいあらしもなく、すきとおった氷もないんだ。月がすがたをうつすこともない。そして、この砂浜にも、もう波はうちよせないのだ。もはや、浜べは浜べではない。なにもかもないんだ。」(159ページ)

アニメのスナフキンが好きだった。冷静沈着、泰然自若としていてすべてのことを見通している、と言ったところが魅力だった。小説の方も基本的にはそういうイメージではあるが、上記のように感傷的になったり、怒鳴ったりするところもあるのが意外だった。
あと、山でわざと石を転がすのは本当に危険だからやめてほしい。小さな石でも次第に大きな石を巻き込んで大変なことになる。

「山くずれになったね。」
スナフキンは、上きげんでした。(104ページ)

いやいや、上きげんじゃ済まないでしょう。下に人がいて死んだら殺人ですから。スナフキンの反社会的な一面を見た感じだ。恐るべし。

ムーミン谷への道を急ぐ一行が、ムーミン谷からの避難民とすれ違うくだりが結構怖い。その後、やっとムーミン谷にたどり着いたムーミントロールが、ムーミンパパ、ムーミンママも加えてみんなでスニフの見つけたどうくつに避難することになるのだが、このくだりでも協調性のまるでない自称哲学者のじゃこうねずみがトラブルメーカーになり、イライラさせられる。この小説、どういうわけか、反社会的だったり、自己中心的だったり、偏屈だったりするキャラが目立つ。「ムーミン」ってもっとみんな仲良く暮らしているんじゃなかったかな。まあ、彗星によって地球滅亡か、という未曽有の事態にのんびりほのぼのしているわけにもいかないかもしれない。
トーべ・ヤンソンのいいところは、そういう問題あるキャラも切り捨てずにきちんと描いているところだろう。世界はどす黒く、人間もまたどす黒いが、決して希望をすてないということだ。
ただ、別に問題キャラを甘やかしているわけでもない。じゃこうねずみとムーミントロールの会話がそれを示している。

「おい、どうなった。わしのようすを気にしてくれるものは、だれもいないのか?」
と、じゃこうねずみがききました。
ムーミントロールは、正直に答えました。
「ありません。ぼくたち、ほかにいっぱい考えることがあるんです。だから、あなたのことを考えるのなんか、ぜんぜんよけいなことだと思うんです。」(222ページ)

このシーンのムーミントロールが好きだ。よくぞ言った、と言う感じ。

読む前の予想とはだいぶ違うけれど、大変面白いし、考えさせられる深い小説だった。中年になった今の方が色々と心にしみる小説だ。

(追記・1)
スナフキンは社会性と想像力が欠けているのではないか。ムーミントロールも調子に乗って一緒に石を投げたが、あとで過ちに気付き、
「大失敗だ。あれは人ごろしだ。あの石が、スノークのおじょうさんの頭にあたったら。」(107ページ)
と言っている。一方、スナフキンは、
「とても大きなまるい石があると、そのままにしておくのが、もったいなくて・・・・・・」(110ページ)
という言いわけともつかない変なことを言ってる。困ったもんだ。

(追記・2)
この「ムーミン谷の彗星」は、昔も映画になっているようだが、昨年も新たに3Dアニメ映画として製作されている。ポーランド製のようだ。この映画のために新曲を提供したビョークのミュージック・ビデオがネットで流されている。例によって世にも不気味なビョークの歌声と共に映画も少し観られる。ビョーク効果もあってか、物凄く不穏な嫌な感じを受ける映像なので日本公開が実に楽しみ。









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