「残酷な記念日」 母の楽しみ

DVD(映画)「残酷な記念日」THE ANNIVERSARY 1967年 イギリス 配給:20世紀フォックス 製作:ハマー・フィルム 監督:ロイ・ウォード・ベイカー 製作・脚本:ジミー・サングスター 出演:ベティ・デイビス エレン・テイラー クリスチャン・ロバーツ ジェームズ・コシンズ ジャック・ヘドレー シーラ・ハンコック 上映時間95分 カラー DVD発売:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン 日本語字幕版
2011年2月10日(木)鑑賞

日本の劇場では未公開の映画。
僕がこの映画のタイトルを知ったのは、遥か昔に買い求めた加納一郎の「推理・SF映画史」(インタナル出版)のなかでベティ・デイビスの一連の作品の中では最も面白い、という趣旨のことが書かれていたのを読んだのが最初だと思う。(残念ながら今手元に同書がないので正確な文面は確認できない。)「推理・SF映画史」が出版されたのが、1975年だそうなので36年かかってやっと観ることができたことになる。長生きはするものである。DVDでみた実際の作品はちょっと予想とは違う内容だったが、かなり面白く観ることができた。

「妖婆の家」(1965年)に引き続き、ベティ・デイビスがイギリスのハマー・フィルムに招かれて出演した作品であり、前作同様ハマーの重鎮ジミー・サングスターが脚本・製作を担当している。ハマーにサングスターとくれば当然ながら怪奇映画かサスペンス映画だろうと予想したのだが、怪奇もサスペンスもモンスターも精神異常の殺人者も何もない映画であった。一応、軽犯罪に属する犯罪は登場するのだが、とてもミステリの範疇には入れられない。
では何の映画かといえば、ホームドラマなのである。ただし、かなり毒を含んだ辛辣なホームドラマだ。

安売り建売住宅の建築業を営む女社長タガート夫人(ベティ・デイビス)は、亡き夫との結婚記念日に身内を集めてパーティを行うことを常としていた。40回目の今年、彼女の家を来訪したのは、三人の息子および次男の嫁と三男の婚約者であった。

紆余曲折のあるストーリー展開があるわけではなく、殺人のようなショッキングな出来事もない。あるのは登場人物たちの執拗ないがみ合い、暴言と毒舌の応酬、他人を陥れる悪巧みといったものである。観ていて本当に不愉快で嫌な気持ちになる。ということはこの作品が成功しているという証しである。
もともとは舞台劇だったそうでセリフの応酬で観るものを圧倒させる展開を観ていると、さもありなんという気になる。ただ、オリジナルはどうだか知らないが、この映画版に限って言えば、主演のベティ・デイビスの圧倒的迫力が他の役者との格の違いをハッキリと知らしめて、彼女の独壇場になっている。
そもそも彼女の演じるタガート夫人というキャラが強烈すぎる。悪意の塊、強権的な独裁体制、毒舌、暴言、人権無視、自己中心的、等々の言葉がすべて当てはまる。そのキャラだけでも凄いのにそれに輪をかけてベティ・デイビスの怪演がキャラを際立たせている。ここまでやるか、と思うほどである。

ただ、この映画が作られた1968年から43年たった2011年の今の方が、このキャラを理解できるような気がする。
母親というものは子どもを愛し慈しむものだ、という固定観念が怪しくなり、子ども虐待のニュースを度々耳にする今、タガート夫人のような母親は決して特殊ではないように思える。子どもを支配し、束縛し、精神的にいじめて楽しむというタガート夫人みたいな人物がいそうである。たとえ子どもが30代になり、妻を持っていても支配し続けたいとする「毒親」をこの時代に描いていることはまさに先見の明である。

この映画の良いところは、そんなとんでもない親を徹頭徹尾ぶれずに描いていることである。人間的な弱さや優しさを垣間見せたり、彼女がなぜそうなったか分析したりしないし、彼女が後悔したり反省したりしない。最後の最後まで性格の悪い実にいやな女のままである。また、唐突に因果応報的に死んでしまうとかの姑息な展開もなく、息子たちのささやかな抵抗もおそらく水泡に帰すであろうという辛辣極まりない結末にしてあるのもお見事である。ひどすぎて爽快感すらある。妥協していないのがいい。

とにかく、ベティ・デイビスを観てるだけで面白くてしょうがない。隻眼という設定でアイパッチ姿が印象的で、残された片方の眼の演技も凄い。「ベティ・デイビスの瞳」と歌にも歌われた大きく青い瞳が本当に澄みきっていて綺麗だ。

他の役者も頑張っているのは分かるのだが、先にも書いたように格の違いはいかんともしがたい。
冒頭の15分くらいはベティ・デイビスがまだ登場しないのだが、このあたりがかったるくてどうにも困った。それ以降も他の役者の場面がどうもしっくりこないように思える。そのへんがもう少し何とかなればさらに傑作になったのではないか。




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