「きょうも上天気」 SFファンへのささやかな贈物

SF(アンソロジー)「きょうも上天気 SF短編傑作選」2010年 浅倉久志訳 大森望編 角川文庫 2010年11月25日初版発行
2010年11月30日(火)購入 ブックファーストルミネ北千住店 定価660円
2010年12月4日(土)読了

今年(2010年)亡くなった翻訳家浅倉久志を追悼するために過去の翻訳作品から選りすぐったSF短編を9編収録したアンソロジー。僕が子どものころから慣れ親しんだ浅倉久志の翻訳をこんな形で読むなんて感慨深い。
半分くらいは昔読んだ記憶があるが、細部のディテールやラストの落ちをすっかり忘れていたので全て初読と同じような新鮮な気持ちで読むことができた。全体的に古き良き時代のSFといった趣のものが多く、楽しく読んだ。
勿論訳文はとても読みやすく、スルスルと一気に頭に入った。さまざまなタイプの作品が収められているが、それぞれの持ち味を生かした的確な翻訳であると思う。
以下、個々の作品の感想を書いておく。

「オメラスから歩み去る人々」1973年 アーシュラ・K・ル・グィン
ある社会の寓話。作者の言わんとすることは分かるし、ユニークな視点ではあると思うが、小説としては評価できない。主張が生硬で小説としての面白さがない。

「コーラルDの雲の彫刻師」1967年 J・G・バラード
J・G・バラードというと、難解とか前衛とか思われがちで「偉大な文学者」に奉られる傾向があるが、基本はいかにもSF的なアイデアストーリーの巧みな作り手であると思う。
この作品も雲に彫刻するというアーティストという卓抜なアイデアが何とも素晴らしい。まるで子どもの空想のような夢のある話なのだが、中身はやはり甘くなく悲劇で終わる。そのバランスがいい。

「ひる」1952年 ロバート・シェクリイ
古典的名作。モンスターものの傑作。軽妙な語り口で語られる恐るべき物語。
大森望の解説で倉橋由美子の「聖少女」について触れているのは嬉しかった。僕のブログでも「聖少女」を取り上げた際、「ひる」について書いたのでわが意を得たりという感じだ。

「きょうも上天気」1953年 ジェローム・ビクスビイ
古典的名作。超能力ものの傑作。軽妙な語り口で語られる恐るべき物語。何の救いもないのが素晴らしい。
ここまでいくともはやこの子どもは、超能力者というよりも神といった方がいいかもしれない。全知全能でしかも善悪の判断が独特な人間が神になったらどんなに恐ろしいことになるのか、という話。これこそ、正真正銘の「恐るべき子ども」である。
「ひる」同様、後年の作品に与えた影響は大きい。スティーヴン・キングの「レギュレーターズ」なんかはもろに影響受けまくりである。

「ロト」1953年 ウォード・ムーア
古典的名作。「世界の終末」ものの傑作。40年ぶりくらいに再読した。オチを忘れていたのでこのオチには驚いた。このオチでの主人公の行動は酷いんだが、爽快感もある。非常事態での緊急避難の手として良し、ではないかと思う。先を見越して準備して行動し非情な決断もする、という主人公の魅力で持っている作品。続編の「ロトの娘」も読んだ記憶があるのだが、どんな話かさっぱり思い出せない。もう一度読みたい。

「時は金なり」1956年 マック・レナルズ
古典的名作。タイムトラベルものの傑作。これも40年ぶりくらいの再読。中学生のころ、近所の古本屋で「SFマガジン」のバックナンバーをひたすら買ってひたすら読んでいたなかの一編。
オチの予想はつくのだが、ラストである人物の放つセリフが実に効果的で、それが忘れ難い作品。

「空飛ぶヴォルプラ」1956年 ワイマン・グイン
この作品および作者は知らなかった。マッドサイエンティストもの。ちゃんと妻や子もいるのにマッドサイエンティスト的素質あり、という主人公がおかしい。普通マッドサイエンティストって、孤高の人だよね。結構ひどい話なのにユーモラスに処理してあるので楽しく読める。ヴォルプラたちが意外に頭がよく可愛い。ラストは健気。

「明日も明日もその明日も」1954年 カート・ヴォネガット・ジュニア
カート・ヴォネガットがカート・ヴォネガット・ジュニアだった時代の作品。カート・ヴォネガットというとノーベル文学賞にの候補に挙げられる「偉大な文学者」というイメージだが、基本はユーモアあふれるSFアイデアストーリーの書き手だと思う。(少なくともこの作品の頃は)
ついに不老不死の薬を発明した人類。世界の人口は120億に達した。これはそんな世界をドタバタ調で描いた作品。ちょっと筒井康隆の「人口九千九百億」を思い出させる。筒井康隆の方が後なので影響受けたのは筒井康隆の方かな。

「時間飛行士へのささやかな贈物」1974年 フィリップ・K・ディック
フィリップ・K・ディックというと死後とみに名声があがり、「偉大な文学者」という趣だが、基本は卓抜なアイデアストーリーSFのすぐれた書き手であったと思う。この作品などその典型だ。
三人の時間飛行士が無限の時間のループに嵌り込み永遠に抜けだせない、という話だが、これは明らかに、三人の宇宙飛行士が無限の時間のループに嵌り込み永遠に抜け出せないさまを描いたリチャード・マシスンの名作「死の宇宙船」の影響を受けているだろう。あの作品へのオマージュとチャレンジといってもいい。こちらでは、単に三人がループしているだけではなく、世界そのものがループしているのだ。そこが上手いし、怖い。
つくづくフィリップ・K・ディックは、「偉大なSF作家」であったと痛感する。

以上のどの作品もSFとしての楽しさがある。その楽しさを教えてくれた浅倉久志にあらためて感謝の意を捧げたい。

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