「変身のロマン」 プシュウドモナス・デスモリチカ

小説(アンソロジー)「変身のロマン」1972年 澁澤龍彦編 立風書房 1972年9月5日第1刷発行
2010年7月26日(月)購入 BOOK・OFFパサージオ西新井店 価格105円
2010年10月10日(日)読了

澁澤龍彦編によるメタモルフォーシスを扱った小説・評論を集めたアンソロジー。小説13編、評論2編収録。
収録順に感想を書いておく。

「メタモルフォーシス考」(評論)澁澤龍彦
古典から現代作品に至るまでの変身譚の概要を手短に取り上げた分かりやすい評論。変身を分類してみせる技も鮮やかで色々とためになる。

「夢應の鯉魚(雨月物語より)」上田秋成
魚への変身譚。面白みが分からず。

「高野聖」泉鏡花
傑作。泉鏡花は、どうにも文章に馴染めず何となく敬遠してきた。読んだのは、「夜叉が池」他数編にすぎず、「海神別荘」他一つ二つを舞台で観たくらいのものである。この「高野聖」も初読。どうせ、タイトル通り坊さんを主人公にした抹香臭い古い小説だろう、という先入観があった。ところが、これが物凄い傑作であった。古いなんてとんでもない、実にモダンな怪奇小説なのである。一回読み、さらに後でもう一回読んだ。読めばよむほどこの小説が巧妙に作られた傑作であるという確信が強まってくる。
まず、この小説はヒロインが素晴らしい。名前は、明記されず婦人(おんな、と読む)として書かれるこのヒロインは、日本文学史上稀に見るホラー・ヒロインであろう。無惨に殺されたお岩様が怨霊となって現れる、というのとはまるで違う。この女の行動の動機がまるで分からない。なぜ、山の中の一軒家に引きこもって住んでいて、近づく者を動物に変えてしまうのか。何かの復讐でもなさそうだし、何かに取り憑かれているのでもないようだ。
蟇蛙や蝙蝠や猿や兎や蛇や馬や牛に変えられた男たちは哀れではあるが、案外至福の時かもしれない。美しい女の手によって、人間でないものに変えられ、彼女の周りを徘徊するしかない、というのはマゾヒストとして最高の境地かもしれない。「家畜人ヤプー」に相通じるものがある。水浴びするために全裸になった女の下半身に猿が抱きつくくだりなんか、エロくてグロくて最高だ。
巻末の解説で澁澤龍彦は、
「ギリシア神話のキルケーのように、「高野聖」の美女は息を吹きかけるだけで、男を獣に変身せしめる不吉な魔性の力を有するが、しかもその半面、白痴の良人には母性的な愛情を示す。」(307ページ)
と書いている。
キルケーについては僕も連想したが、あとの「母性的な愛情」という記述には疑問がある。あの少年のような白痴の良人も周りの動物たちと同じように、女によって変身させられた姿なのではないか。一緒に住まわせて自分の思い通りに嬲って持て遊んでいるような気がしてならない。
というわけで色々なことを考えさせる良く出来た怪奇小説なのだが、ラストまで読むとまた疑問が湧いてくる。結局、主人公の坊さんは、現実としては怪異は何一つ目撃していないわけだ。あくまで、おやじという男が話した「真相」がすべてである。おやじが、世間知らずの坊さんを口から出まかせで騙くらかしたということも大いにあり得る。そのような解釈も成り立つ二重構造の巧妙さでもこの小説は際立っている。
それにしてもこのおやじとはそもそも何者なのか。

「山月記」中島敦
再読。教科書にも載っている(た)くらい有名な小説だが、どこがいいのか理解不能である。わざわざ中国ネタを持ってくるのも意味不明。日本を舞台に翻案するならまだしもまんま中国の話にするのはなぜか。作者に漢文の素養があるのはまことに結構だが、これなら「聊斎志異」の日本語訳で十分じゃないのか。芸術家の運命を描いた、とか言われてもまるでピンとこない。

「魚服記」太宰治
再読、いや三読目。これももとは中国ネタらしいが、中島敦と違ってさすが太宰治である、見事に自家薬籠中の物にしている。ちなみに中島敦と太宰治は、同じ1909年の生まれだそうである。

「デンドロカカリヤ」安部公房
まるで良さが分からない、いや、それどころか何が書いてあるのかもわからない。

「牧神の春」中井英夫
中井英夫は好きな作家だが、これは面白くなかった。ただ、プシュウドモナス・デスモリチカという言葉を知ることができたのは良かった。石油を喰う微生物の名前だそうである。

「牡丹と耐冬 ━聊斎志異より」蒲松齢
先にタイトルを挙げた「聊斎志異」の一編。花をめぐるロマンティックで悲しい話。

「美少年ナルキッススとエコ ━転身物語より」オウディウス
ギリシア神話の古典的変身譚の一編。

「悪魔の戀」ジャック・カゾット
面白くない。

「オノレ・シュヴラックの失踪」ギヨーム・アポリネール
再読、いや三読目。やっぱりアポリネールは面白い。

「みどりの想い」ジョン・コリアー
三読、いや四読目くらい。何度でも面白い。ラストの四行がとりわけ好きである。

「断食芸人」フランツ・カフカ
初読。やっぱりカフカは面白い。非常に分かりやすい文章、単純なストーリーなのに何か心に残るものがある。断食を芸にして披露する芸人という発想も卓抜で面白い。オチがまた面白い。最後の断食芸人の言葉をどう解釈するかでこの作品に評価も変わる気がする。すんなり読むと、これってギャグのつもり?と思ってしまう。しゃれたオチのあるユーモア小説のようにも受け取れる。または人生の不条理をブラックユーモアで表現した辛辣な小説にも読める。あるいは、付和雷同する世間の人々を皮肉った風刺小説とも思える。浅いようで深く、深いようで浅い、それがカフカだ。面白いのだけは確かである。

「野の白鳥」アンデルセン
このところグリム童話をまとめて読んでいたので、アンデルセンを読むとなんとなく違和感がある。話の作りは、アンデルセンの方がはるかにうまいと思うが、何だか作りすぎで楽しめない。

「変形譚」(評論)花田清輝
澁澤龍彦とは違う視点で変身譚をとらえている。
「社会を変形させるものは労働者」というくだりがよく分からない。真面目に書いているのかジョークなのか、も分からない。ラストの二行はジョークだとは分かるのだが、何となくはぐらかされた気分だ。



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