「世界100物語3 巧みな語り」 戻っておいでよ、すぐに戻っておいでよね

アンソロジー「世界100物語3 巧みな語り」1939年 サマセット・モーム編 河出書房新社 1996年12月20日初版発行
2010年7月29日(木)購入 BOOK・OFFパサージオ西新井店 価格105円
2010年10月2日(土)読了

3巻目。16編収録。

「颱風」イギリス ジョゼフ・コンラッド
つくづくジョゼフ・コンラッドはいいネタを持っているなあ、と感心する。書斎に閉じこもっている作家ではとても生み出せない、コンラッドの実体験に基づく物語が実に強烈な臨場感を持って迫ってくる。
イギリスの植民地での数年間の出稼ぎを終えた200人(!)の中国人苦力(クーリー)を故郷の福建省に送るために航海する汽船ナン・シャン(南山)号は、暴風の容赦ない襲撃を受ける。果たして船長マクホアは、無事に任務を達成することができりであろうか。
映画にすると単純な海洋パニック映画になりそうな話だが、小説は読む側がいろいろ想像しながら読むので膨らみがあり楽しめる。冒頭でのマクホア船長とジュークス一等運転士の国旗をめぐる全くかみ合わない会話が笑いを誘うのを筆頭に武骨ながら随所にユーモアがあるのもいい。嵐でパニックに陥った200人の中国人たちが喧嘩をおっぱじめるあたりも可笑しい。これじゃあ、まるでゾンビ映画に出て来るゾンビの群れだよ。
ジョゼフ・コンラッドの人種偏見も窺えるのだが、話作りが上手いせいかそんなに気にならない。どんな困難にも立ち向かうマクホア船長のキャラがいい。

「男爵の運命」オーストリア シュニッツラー
ある女の恋の駆け引きに翻弄され悲惨な運命をたどる誠に気の毒な男爵の話。1903年の作ということなので、いささか時代遅れになりつつある貴族という存在を意地悪く皮肉った作品という感じがする。ホラーっぽい展開になると見せかけてそれをひっくり返すという趣向が面白い。現実的に考えると、ちょっと都合よく行き過ぎ。

「有為転変」アメリカ O・ヘンリー
洒落たオチの小品。アメリカ流「大岡裁き」の一編。

「一文なし」イギリス アーサー・モリスン
イースト・ロンドンにおけるストライキのあおりを受けた労働者たちは、職を求めて様々な土地に向かって歩いて行った、という貧困をテーマにしたシリアスな作品。だが、単に支配階級を糾弾するのではなく、貧しい者の間の裏切りも描かれるので余計に切なくなる。

「ふみにじられた雌鹿」フランス ピエール・ミル
「こういう小さな町のホテルじゃ、きまってブルターニュの娘を置いとくんです。場合によっちゃ、夜の御用も承らせるんです・・・・・・」(158ページ)
ブルターニュってそういう役回りがあったのか、知らなかった。実に嫌な話だが、ラストは上手い。むしろ上手すぎてあざとく感じた。

「猿の手」イギリス W・W・ジェイコブズ
名作。このブログでも既に取り上げたことがある。今回、読んで気付いたことは、「手足を切断された息子」(181ぺージ)という記述があること。では、あのノックはどうやって叩いたのだろうか。あるいは誰が叩いたのか。

「馬車」イギリス ヴァイオレット・ハント
ゴースト・ストーリー。その乗合馬車の乗客は全て死者で、しかも犯罪の被害者か加害者であった、という話。ロバート・ブロックの「地獄行き列車」と言う傑作を思い出した。
どことなく凄みのあるユーモアに彩られたダークさがある。乗客の会話で生前の人となりがわかるくだりもよく出来てるし、何故か殺した人と殺された人が同乗しているあたりもシニカルなユーモアを感じる。馭者が、自分の首を小脇に抱えているというのも可笑しい。
しかし、幽霊馬車が生きてる人間を殺しちゃまずいでしょう。この辺もかなりダークだし、ラストの一行のセリフも結構ひどくて笑える。

「最後の面会」フランス トリスタン・ベルナール
ヘンリー・スレッサー風のオチのある犯罪もの。上手い話だが、感動とまではいかない。

「王様になりたい男」イギリス ラドヤード・キプリング
ジョン・ヒューストン監督の映画「王になろうとした男」の原作。映画は随分前に観たきりだが、かなり面白く観た記憶がある。初めて原作を読んだが、案外原作に忠実な映画だったんだ、と認識した。
植民地インドでも食い詰めた二人のイギリス人の男が、仕事にあぶれない王さまになろうと向かったのは、「アフガニスタンの右手のいちばん上の隅っこ」にあるカフィリスタンという土地であった。二人は悪知恵を働かせて原住民を手なづけて野望を達成したかに見えたのだが、とんでもない事態に陥ってしまう。
かつてイギリスを始めとするヨーロッパの国々が世界各地で行っていた蛮行のパロディーとして読むと非常に面白い。キプリングのストーリーテラーぶりとユーモアのセンスが実にいい。期せずして、ジョゼフ・コンラッドの「闇の奥」のパロディーにもなっている。
それにしても、このころから既にアフガニスタンは問題の土地だったんだな。
「ところがアフガニスタンといえば山や峰や氷河の塊りみたいな土地で、英国人でそこを通り抜けた者はひとりとしてないんだからね。そこの人間はまったくの野蛮人だ。」(234ページ)

「神の恩寵もえられず」イギリス ラドヤード・キプリング
これもキプリングの作品だが、一転して至ってシリアスなものである。イギリス人男性がマホメット教徒の異国の娘(インド人?)と結婚し子どもも出来るのだが、子どもは幼くして亡くなり、妻もまた病で失うという悲劇的な話。
ユーモアがまるでないので読むのがしんどい。

「パパゴウの婚礼」アメリカ メアリー・オースティン
どこが面白いのかさっぱり分からなかった。

「フランツおじさん」ドイツ ルートヴィヒ・トーマ
これも面白くない。オチもない。

「塀とその扉」イギリス H・G・ウェルズ
再読。有名な作品だが、今回はあまり面白いと思わなかった。今となってはありふれたストーリーなので驚きがないし、そもそも肝心の扉の向こうの世界というのがそんなに魅力的な世界に見えないのが困りものである。豹の頭なんか撫ぜたくないよ。

「困窮の実験」アメリカ スティーヴン・クレーン
「一文なし」同様、貧困を描いた作品。社会的な意義はともかくとして小説としてまるで面白くない。

「トバーモリー」イギリス サキ
再読。これも有名な作品で、かの有名な人語をしゃべる猫トバーモリーの話。サキらしい皮肉な作品で面白い。ただ、トバーモリーよりもラストの象の方で笑った。

「焚火」アメリカ ジャック・ロンドン
ジョゼフ・コンラッド同様、ジャック・ロンドンも他の人には絶対書けないネタを持っているのが強みである。
厳しい自然の中で次第に追い詰められ、死への道をたどる男の悲劇を実に冷厳に描いた作品。感傷の入る余地のない突き放した描写が胸に残る。最初はなんでもないようなことなのに段々とのっぴきならないことになるその過程が実に怖い。傑作。

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