「世界100物語2 奇妙なこぼれ話」 このまちで、いちばん尊いものを二つ

アンソロジー「世界100物語2 奇妙なこぼれ話」1939年 サマセット・モーム編 河出書房新社 1996年11月20日初版発行 
2010年7月18日(日)購入 BOOK・OFFパサージオ西新井店 価格105円
2010年9月29日(水)読了

2巻目。11編収録。

「オランプとアンリエッタ」フランス ヴィリエ・ド・リラダン
オランプとアンリエッタの姉妹は売春を生業とする職業婦人であった。姉妹の標語は「迅速、安全、慎重」であり、名刺には「専門家」と付け加えていた。ある日、妹オランプはあやまちを犯してしまった。恋に落ちたのである。そう、お金を一銭も貰わずにセックスをするという不道徳な行為に身を投じたのである。姉アンリエッタの嘆きと悲しみたるやいかばかりか。やがてオランプは病に倒れ、死の床につく運命となった。そこへかの恋人がお金を持ってやってきたではないか。かくしてオランプの魂は救われたのであった。
いかにもリラダンらしい逆説的ユーモアに満ちた怪作。内容も凄いが、齋藤磯雄の訳文がまた凄い。華麗にして大仰極まりない表現で埋め尽くされ、読者をひたすら眩惑する。古臭くて読み辛くて解かりにくい文章なのだが、何となく納得させられてしまう。リラダン=齋藤磯雄と言う風に洗脳されてしまったようだ。読みやすいリラダンの新訳をどこかで出してくれない限り洗脳は解けないようだ。

「三人の男」イギリス トマス・ハーディ
雨の夜、一軒の農家では娘の洗礼を祝うためにたくさんのお客が集まっていた。そこへ突然、見知らぬ男が訪ねてきて「雨宿りさせてくれ」と頼み込む。その家の主人はこころよく受け入れる。やがて、もう一人がやってきて同じように家に入る。さらにもう一人の男が・・・。
という話でこの謎の三人の男をめぐるちょっとユーモラスでどこかペーソスのあるドラマが繰り広げられる。なかなか面白い。ラストの5行がそれまでと違うタッチで話を印象深く締める。

「愉快な街角」イギリス ヘンリー・ジェイムズ
ゴースト・ストーリー、しかも基本中の基本たる幽霊屋敷もの。家を出て長らくヨーロッパで暮らしていた男が、ニューヨークにある生家に帰ってきた。今は誰も住んでいないその家で彼は毎夜過ごすことにしてみる。やがて彼はそこで何ものかに遭遇することになる。
面白おかしい怪異譚ではなく、一人の男の心理を執拗に描いている心理小説。何ものかが結局何なのかは最後まで分からない。幽霊であるとは書かれているのだが、誰の幽霊で何のために出るのかといったことは明かされない。「愉快な街角」原題THE JOLLY CORNERの意味するところもよく分からない。

「ユダヤの総督」フランス アナトール・フランス
チベリウス帝の命を受け追放されたラミアは長い年月の後、許されて都に戻ってきた。そこで彼は昔馴染みでかつてシリアでユダヤの総督を務めていたピラトに出会い旧交を温める。思い出話の中、ラミアはふとピラトにある男のことを尋ねるが、ピラトは覚えていないというばかりであった。
ラスト一行のオチのための作品。ちょっと面白い。このネタは色々な作家がやりたがるネタなので今読むと抜群に面白いとまでは言えない。皮肉な味はいいと思うが。

「青春」オーストリア フランツォース
青春残酷物語。それはその男にとっては単なる青春の1ページの出来事にすぎなかった。甘くほろ苦い恋の思い出。だが、相手の女とそのおなかの子にとっては地獄の日々の始まりであった。
美化された思い出と現実とのあまりにも大きな落差を巧みに描いている傑作。心に響く泣かせる作品。

「マーカイム」イギリス ロバート・ルイス・スティーヴンソン
マーカイムという名の男は、クリスマスの日、馴染みの骨董品屋に赴き、そこの主人を金欲しさに殺す。店を物色中のマーカイムの前に謎の訪問者が現れる。その訪問者は神なのか悪魔なのか。
ディケンズの「クリスマス・キャロル」と比較したくなるようなクリスマス・ストーリー。訪問者の善悪がはっきりしないところがミソで読者の興味を引っ張る。ラストの展開も鮮やか。面白い。

「くびかざり」フランス モーパッサン
あまりにも有名な作品。随分昔に読んだ記憶がある。今となってはオチは平凡と思えるのだが、素直に謝罪の言葉が言えず取り繕うことばかり考えて10年間苦しみぬいた夫婦の姿に妙に共感してしまった。アイデア・ストーリーにとどまらない人生の実感というものを強く感じる。

「遺産」フランス モーパッサン
傑作。読みながら声を出して何度も笑ってしまった。実に面白い。とにかく出て来る人間がすべてと言っていいほど卑小な俗物ばかりなのが気に入った。嫌な奴らの嫌な話である。
姉の残した莫大な遺産をめぐり右往左往する弟カシュランとその娘夫婦の姿がひたすら笑える。そのうちおぞましくなる。人間の金銭欲の浅ましさにうんざりする。家族間の揉め事に耳をふさぎたくなる。
モーパッサンの巧みなストーリーテラーぶりに魅了させられる。こんな嫌な話を面白可笑しく読ませてしまうのだから大したものだ。そして、ラスト近くになるとこの三人の家族にどこか心を惹かれてしまう。愚鈍で欲張りな人たちだけど、いやだからこそ悲しくて愛おしい気さえしてくる。「くびかざり」同様、そこに人生を観てしまうから感動してしまうのだろう。素晴らしい。

「ごくつぶし」フランス オクターヴ・ミルボー
傑作。「働かざる者、食うべからず」という格言をその通りに実行した話。
フランソワ爺さんがいよいよ働けなくなった日の晩、彼の妻は何も食べ物を与えなかった。
「稼がない人間は、もう人間じゃないんだよ。なんでもないんだ。」
「今はもう稼がない、だからもう食えない。そういうことになるんだよ。」
妻の言うことはまったくもって正論であった。それからフランソワ爺さんは部屋に引きこもり、何も食べず、衰弱して死んでいった。
なんという厳しい話だろう。これに比べると日本の姥捨て山伝説なんかはまだロマンティックである。
フランス的個人主義の究極の形かと思う。
ラストの妻のモノローグも実に味わい深い。

「幸福の王子」イギリス オスカー・ワイルド
再読、いや三読くらいか。あまりにも有名な童話である。尊い自己犠牲の話なのだが、今回読んでみると自己犠牲ならぬ自己満足の話のように思えてならなかった。王子の自己犠牲により、貧しい人たちは本当に救えたのだろうか。単なる一時しのぎにすぎないのではないか。そもそも、金品しか人を不幸から救う手だてがないということ自体、虚しいことではないのか。その虚しさが心に残る。

「ブルース=パーティントン設計書」イギリス コナン・ドイル
所謂文学作品のアンソロジーにミステリが入っているのも奇異だし、しかも超有名なシリーズキャラクターの作品となるとなおさら違和感がある。選者サマセット・モームのお遊びと捉えたらいいのだろうか。それにしてもそれまでの作品と落差がありすぎである。それが面白いとも言えるが。
この作品自体は、シャーロック・ホームズものの中では出来のいい方だと思う。ただ、ホームズが追うのは国家的機密である潜水艇の設計図をめぐる事件であるというのが異色である。シャーロック・ホームズよりジェームズ・ボンドの方が適任のような事件だ。(時代が違うが)
サマセット・モーム自身、イギリス情報部に関与していたようなのでスパイものの要素のあるこの作品に惹かれたのかもしれない。
まあ、こういう妙なセレクトもアンソロジーの楽しみと割り切ろうと思う。

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