「渚にて」 アルバート・アインシュタインが始めた戦争

DVD(映画)「渚にて」ON THE BEACH 1959年 アメリカ 製作・監督:スタンリー・クレイマー 原作:ネヴィル・シュート 脚本:ジョン・バクストン 出演:グレゴリー・ペック エヴァ・ガードナー フレッド・アステア アンソニー・パーキンス ドナ・アンダーソン 上映時間134分 モノクロ 日本語字幕 DVD発売:20世紀フォックス ホーム エンターテインメント ジャパン 
2010年5月4日(火)鑑賞

初見。ちなみにネヴィル・シュートの原作も未読。
1964年、核戦争により北半球が全滅する。そして、5ヶ月後には南半球にも放射能が到達し、全人類絶滅の予定という基本設定が映画の最初の方で提示される。映画の前半では、オーストラリアのメルボルンを舞台に絶望しすっかり諦めた人々の日常生活が描かれる。
ここがまるでつまらない。「もう人類滅亡だから・・・」と思いこんだ人々が何をやるかと思いきや、海でヨット遊びとか夜はパーティでお酒とか、本当に日常的なことばかり。なんで誰も核シェルター作ろうとか、放射能に対する医療体制をしっかりさせようとか、の現実的かつ具体的行動を起こさないのだろうか。諦めが速過ぎる。
そもそも核戦争の詳細がまるで明かされず、簡単に「北半球は全滅」とか説明されるだけなので、観ていてまるで絶望感が伝わってこない。従って、登場人物がみんな不思議な存在に見えてしょうがない。

この映画の主な登場人物は、グレゴリー・ペック演じるアメリカ海軍の潜水艦艦長、アンソニー・パーキンス演じるオーストラリア海軍の将校、フレッド・アステア演じる科学者、エヴァ・ガードナー演じる訳ありの女性といったところである。ペック、アステア、ガードナーは三角関係のようなメロドラマを繰り広げるし、パーキンスは前途を悲観し悩みに悩んでちょっと危ない感じ。前半はとにかくこれらの人物の深刻な顔を見続けねばならず極めて退屈。
いくらでも心理描写にページを割けることができる小説とは違い、映画は役者の表情だけで表現しなければならないから大変だ。特に「絶対的な絶望」を観る者に納得させねばならないのだから。で、結局は納得できなかった。
どうせなら、みんなが団結して様々な方策を試行錯誤したが、全てが無駄に終わり破滅を迎えるというプロセスを踏んだ方が納得できたと思う。ただ、座して死を待つ人々を淡々と描かれてもつまらないだけだ。

結局、核戦争がどのようにして始まり終わったのか、そもそもどことどこの戦争なのか最後まで分からない。この映画を観てる者だけではなく、登場人物も分からないという設定なのだ。これってていのいい逃げじゃないだろうか。どこの国も悪者にしないというのは結構なことにも見えるが何となく及び腰なのだ。
映画の冒頭にオーストラリア海軍に対して撮影に協力してくれた感謝の言葉が字幕で出る。確かに実物の潜水艦なんかを撮影出来て映画のリアリティーは増しただろうが、これじゃあ及び腰になるはずだ。
人類滅亡の責任を負うはずの軍人をなぜか主人公に据えているのもなんだかなあという感じ。演じるのがグレゴリー・ペックだから、カッコよくて威厳があり責任感が強くて誠実そうである。北半球の戦争には偶然参加しなかったという設定も好感度あり。ただ、この映画の彼は別に英雄的行為をするわけでもなく、何の役にも立たないのがせめてもの救いである。それにしても、もっとオーストラリアの一般人を主要登場人物に加えた方が良かったように思う。

というわけで前半は退屈なのだが、上映時間をちょうど半分くらいからやっと映画らしい動きが出て来るのでほっとする。待望の潜水艦の活躍である。南極、サンフランシスコ、サンディエゴと三つの目的地に行くのだが、南極はともかくとして残りの二か所のエピソードは色々面白く出来ている。まったく無傷でしかし無人のサンフランシスコの情景というのもなかなかいい。核攻撃そのものではなく放射能で住民が死に絶えたのだ、という発想がいい。とかく放射能の危険性を軽視する傾向のある(今でもだ)アメリカ映画にしては良く出来てる方だ。
ただそれが行き過ぎて、放射能にやられたら治療不可能とか、苦痛を取り除くには毒薬を飲んで安らかに死のうとかのシーンが後の方にある。現実に今もなお原爆の後遺症と闘っている人々がいるのだから、集団自殺(自決?)した方が幸福というようなシーンは大いに問題がある。

サンディエゴのシーンは非常に有名なシーンだがあまり感心しなかった。飲料水メーカーのタイアップ?と疑いたくなるようなシーンだ。そこまでの盛り上げ方が上手いだけにいささかガッカリ。

終盤にあるフレッド・アステアのカーレースシーンはいらない。へたくそなスクリーンプロセスを使ってまで作るシーンとも思えない。「ラスベガス万才」でエルヴィス・プレスリーがカーレースするのは笑って観られる(そもそもラブコメだし)けれど、この真面目な映画(のつもりでしょ?)ではメチャクチャ違和感がある。

映画としては少しはいいところもあるのだが、全体的にはちょっと困った作品である。一流の監督に一流の役者、メルボルンロケに実物の潜水艦、と金と時間が豊富にかかったであろう大作が傑作にならずに終わるという不思議なことが映画には起きるものなのだなあ、ということがよく分かる作品である。

この映画の名セリフ。
「誰が始めた戦争なんだ?」
「アルバート・アインシュタイン」






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