「H.G.ウェルズのSF月世界探検」 悪意なき殺戮

DVD(映画)「H.G.ウェルズのSF月世界探検」H.G.WELLS’FIRST MEN IN THE MOON 1964年 イギリス 配給:コロンビア映画 原作:H.G.ウェルズ 製作:チャールズ・H・シニア 製作・特撮:レイ・ハリーハウゼン 監督:ネイザン・ジュラン 脚本:ナイジェル・ニール ジャン・リード 出演:エドワード・ジャッド マーサ・ハイヤー ライオネル・ジェフリーズ 上映映画103分 DVD発売:ソニー・ピクチャーズジャパン
2010年2月21日(日)購入 ヨドバシカメラAKIBA店 価格1000円
2010年3月1日(月)鑑賞

レイ・ハリーハウゼンの特撮映画。日本劇場未公開。テレビのみ放映。原作は、H.G.ウェルズの「月世界最初の人間」。

冒頭、国連による宇宙船が月に着陸するところから始まる。時代はどうやらこの映画の製作された1964年らしい。「これでウェルズ原作って言っていいの?」と素朴な疑問が生まれる。ちなみに宇宙船の乗組員はアメリカ、ソ連、イギリスなどの混成チームである。冷戦のただなかに作られたにしては融和ムードがなかなか好ましい。
人類史上初めて月に乗組員が降り立ったことを各国のテレビ局が伝えるのだが、アメリカ、ソ連、イギリスに混じって日本が入っているのも嬉しい。外国映画で日本語が聞こえて来ると嬉しくなるのはなぜだろうか。(「表面」という言葉の発音が少しおかしい気もするけど。)「新猿の惑星」でも「猿きたる」のニュースを日本語で伝えていたのを思い出す。
それはさておき、乗組員たちは月面上にあり得ない物を発見する。それは古びたイギリス国旗と「ビクトリア女王陛下に栄光あれ 1899年」と書かれた紙だった。そんな昔に月に到着したものがいたのか。人びとは色めき立ち調査を始め、やがて真相を知る一人の男にたどり着く。人びとに問われ、その男アーノルド(エドワード・ジャッド)は驚くべき真実を語り始める。

ここまでは実に快調で面白い。原作を読んだのはずいぶん昔でしかも子供向けにリライトしたものだったのではっきり言えないが、ここまではおそらく原作とは無縁の現代的アレンジだろう。それがうまくいって後の展開に興味津々となる。
ところが、話が1899年に遡って展開するとあまり面白くなくなるのだ。いや、作り手はかなり頑張ってコミカルに面白おかしくしようとしているのだが、見事に空回りしている。
いつものハリーハウゼン映画だとドラマ部分がなんだかおざなりに感じられるのだが、今回は役者に演技させてドラマを盛り上げようとはしている。マッドサイエンティスト的な変人男カボール(ライオネル・ジェフリーズ)のハイテンションな言動が面白くなるところまでいかず、なんとなくうざいのである。結局、僕が観たいのはドラマでもドタバタコメディーでもなく、特撮なのだ。その意味でこの映画の前半部分は特撮の魅力がなく退屈した。

上映時間の半分を過ぎてからやっとアーノルド、カボール、ケイト(マーサ・ハイヤー)の三人が月に到着する。ここからがやっと本題である。今回は、ハリーハウゼンお得意のクリーチャーがあまり活躍しない。セレナイトと呼ばれる月の住民とムーンカーフ(月牛)という怪物くらいか。月牛といってもまるで虫みたいなんですけど。
むしろ注目は、荒涼たる月世界とその地下世界のセットと美術である。今時のCGには望めないクラシカルな映像美が楽しめる。
コミカルな前半と一転して後半はシリアスな展開になる。なんだかカボールやアーノルドの性格も変わってしまったような感じ。アーノルドがやけに好戦的でカボールが平和主義者みたいになる。それが一つの狙いだというのはラストでわかる。

このラストもおそらく原作にないだろう。というかこれはウェルズの別の作品のラストを持ってきて使用しているのである。それが非常に効果をあげている。
知的好奇心旺盛で平和主義者のカボール一人が地球に戻らず月に残り、セレナイトたちと暮らす道を選ぶ。だが、その行為が結果的に無辜の民を殺戮し、一つの文明を滅ぼすに至ったのだ。これはじつにシニカルで怖ろしい話ではないか。このくだりはおそらく脚本のナイジェル・ニールによるものではないか。
ナイジェル・ニール脚本の「火星人地球大襲撃」(1967年)を思い出した。異質なもの同士が出会ったとき、どのような恐るべき事態になるか、「原子人間」(1955年)以来のナイジェル・ニールのテーマである。
それがここではブラックユーモアで描かれている。なぜなら全ての元凶は●●だからだ。まさか●●のために全てが死滅するなんて。皮肉でよくできている。
まあ、これはもともとはウェルズが偉いのだが、こういうふうに応用できるものなのだと認識できた。

色々不満もあるが、見どころもあるいい映画であった。

(追記)カボール役のライオネル・ジェフリーズが、2月19日に亡くなっていたことを今、知った。享年83。ご冥福をお祈りする。(3月4日)

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