「鼻のある男」 あの人たちの悪

怪奇小説(アンソロジー)「鼻のある男 イギリス女流作家怪奇小説選」1865年~1932年 イギリス ローダ・ブロートン他著 梅田正彦訳 鳥影社 2006年12月20日初版第1刷発行
2010年1月9日(土)読了 読書時間140分

8編収録。本当にイギリスの作家って怪奇小説が好きだな、と思う。特にゴーストストーリーには並々ならぬ関心と熱意を寄せているようだ。読むほうからすれば同工異曲の感が強くて、「またか。」と思うのだけれどもこちらも根が好きなものだから目につくとつい買って読んでしまう。この本は3年前の発行だが、高田書店(古本屋)にて購入した。

「鼻のある男」1873年 ローダ・ブロートン
新婚旅行中の花嫁が突然失踪するというストーリー。現実的な犯罪に巻き込まれたのか、それとも超自然の力によるものなのかラストでも判然としない。そこが一番の魅力である。

「すみれ色の車」1910年 イーディス・ネズビット
自動車怪談。娘を轢き殺したすみれ色の自動車が老いた父親を襲うというひどい話。出来としてはまあまあだが、書かれたのが1910年というのに注目したい。いまからちょうど100年前、明治43年である。自動車怪談としてはおそらく最初期のものだろう。新鮮なネタをすぐゴーストストーリーにする態度はあっぱれ。

「このホテルには居られない」1895年 ルイザ・ボールドウィン
こちらはエレベーター怪談。おっとイギリスの話なのでリフト怪談である。これも書かれたのが1895年というのが興味の的。もうこの当時にリフト(エレベーター)があるホテルがあったというのが面白い。主人公は水力(!)で動く乗客用リフトの運転手。勤務は正午から夜中の12時までの12時間労働であるとか細かいところが妙に面白い。肝心の話は今となってはひねりもなく普通の出来栄え。

「超能力」1932年 D・K・ブロスター
怪作。14世紀に造られた日本刀に宿る怨霊が20世紀のイギリスの少女に憑依して、世にも恐ろしい惨劇が起こるという話。作者は日本刀の蘊蓄を披露して大真面目に書いているのだが、読む方としては笑いが込み上げてくる。まことに妙な作品である。よくぞこんな作品を探してきたものだと感心する。
作者は何か元ネタがあってこれを書いたのか、全くの独創か。ともあれ日本刀に対する尊敬の念と恐怖心が強く感じられる一編である。

「赤いブラインド」1920年 ヘンリエッタ・D・エヴェレット
幽霊屋敷もののヴァリュエーション。いかにも怪談らしい怪談でちょっと平凡。

「第三の窯」1865年 アミーリア・エドワーズ
出来は中程度だが舞台設定がユニーク。陶磁器製造工場の窯場という幽霊には似つかわしくない場所に幽霊が現れるというギャップの面白さ。燃え盛る炉の火の中に幽霊が吸い込まれていくというヴィジュアルイメージがいい。

「幽霊」1928年 キャサリン・ウェルズ
ちょっとした遊びで始めた幽霊ごっこに本物が・・・という話。オチは今となっては平凡に感じるが上手くできている。「小さなお化け」が怖い。

「仲介者」1932年 メイ・シンクレア
中編位の長さの作品。子供の幽霊の話。なかなかの力作だと思うが、正直言ってこういう作品は好きになれない。育児放棄という名の児童虐待をこの時代に扱っているのはまことに先駆的だが、怪奇小説にふさわしいかというとはなはだ疑問である。クライマックスの残酷でいて感動的な場面もすぐれているとは思うけどどうにも重たくてしんどくてやはり好きになれない。

以上8編、大傑作はないけれどユニークな作品が並んでいて選者のセンスの良さを大いに感じる。

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