「黒澤明という時代」

映画本(評論)「黒澤明という時代」2009年 小林信彦著 文藝春秋 2009年9月15日第1刷発行
2010年1月16日(土)読了 読書時間120分

尾形敏朗の「巨人と少年 黒澤明の女性たち」を読んだらもっと黒澤明に関する本が読みたくなった。そこでこの本である。去年の秋に出た小林信彦の最新刊だ。

「黒澤明の女性たち」というテーマを定めてその角度から黒澤作品を読み解いていった尾形敏朗に対して、小林信彦はすべての作品をリアルタイムで観てきたという個人的体験をもとに個々の作品を評価していく。それは黒澤を語りながらも自分について語っているようにも見える。読み終わると小林信彦も老境に入ったのだと思わせ感慨深い。

黒澤明の作品でどれを評価するかはまさに人によって千差万別である。尾形敏朗の本で「デルス・ウザーラ」(1975年)に嗚咽するくらい泣いて感動したとあるのを読んで、「へえー、そんな人もいるのか」と思ったばかりだ。
この本のあとがきに代えてで「自分の舌しか信用しない」と小林信彦が書いている通りである。「他人の見方はどうでもいいことだ」とも書いている。これは少し違う。もちろん最終的に信用するのは自分の舌だが、他人の見方を知ることはこちらを刺激する。賛同もあり反発もあるのだが、映画を観ることの強い動機付けにはなる。すぐれた映画評論はこちらを挑発してくれる。それが映画評論の唯一の価値と言っていい。

小林信彦も遠い昔からすぐれた挑発者であった。

この本においてやはり読んでいてこちらの心が高揚するのは、小林信彦が傑作として評価している作品を論じる時だ。書き手の胸の高鳴りがダイレクトに伝わってくる。これこそが映画について書かれたものを読むことの醍醐味である。興奮や感動のない文章なんていらない。その意味で「第五章「酔いどれ天使」-同時代性の衝撃」や続く第六章の「野良犬」のくだりは抜群に面白くて是が非でもこの2作品を再見したくなる。最近のキネ旬の「オールタイム・ベスト」の日本映画編で「野良犬」が10位に入ったのは小林信彦の影響ではないかと思っている。だってここまで持ち上げて書いている人は今は他にいないから。

それ以外の作品についてもいろいろ示唆に富んだ指摘が多く非常に面白かった。ただ「どですかでん」(1970年)以降の作品については評価も芳しくなく、書く方の小林信彦も気乗りしないようで読んでいて非常に辛い。つまらない作品について書くと評論もつまらなくなるということだ。さらに黒澤明の老いに小林信彦の老いが重なり合うようでより辛くなる。



黒澤明という時代
文藝春秋
小林 信彦

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