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zoom RSS 『宇宙戦争』 火星人占領下の地球に生きる

<<   作成日時 : 2017/08/02 07:22   >>

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小説(SF)『宇宙戦争』THE WAR OF THE WORLD 1898年 イギリス H・G・ウエルズ著 斉藤伯好訳 ハヤカワ文庫SF 2005年4月15日発行
2017年7月22日(土)読了

(注意!)ネタバレあり。

H・G・ウェルズの古典的名作SF。久々の再読。大まかなストーリーは覚えているし、2本の映画版も観ているので今読んでみて面白いか疑問だったが、それは杞憂だった。圧倒的な面白さである。
いま、大まかなストーリーは覚えていると書いたが、実は読んでみると、色々と細部(それも大事な所)が抜け落ちていたことに気付く。う〜ん、昔読んだのは子ども向けにリライトしたものだったのだろうか。「こういう小説だったのか」と思うところ、多々あり。

この小説が、出版されたのが、1898年。小説のなかの時代もおそらく同時代に設定されている模様。
主人公である作家(哲学に関するエッセイなどを執筆している)が、「わたし」という一人称で綴った回想録という体裁である。どうやらこの「事件」から数年後の視点から書いている。そして、「わたし」の姓名は最後まで出て来ない。かなりの初期段階から一連の出来事を目撃・体験してきた者という設定で臨場感を出そうという試みなのである。

ロンドン郊外の町に突然落下してきた謎の円筒ロケット、それには恐るべき火星人が乗っていた。火星人は、問答無用で破壊と殺戮を開始する。
白旗を掲げてロケットに近づいた地球人三人(天文学者、天文台長、新聞記者)をいきなり高熱ビームが襲い、人間は一瞬にして炎と化す。しかもこの高熱ビームは、不可視光線、つまり目に見えない。透明なビームは、さらに人々をなぎ倒していく。序盤のこのシーンは実に迫力がある。火星人が、初めてその威力を見せ付けたシーン。目に見えない光線が、人間を殺戮していくというスプラッター描写に興奮する。
2本の映画化作品のみならず、後世の作品に多大な影響を与えたと思しい。最初っから地球人と意思疎通するなんて気持ちはゼロでイキナリ殺戮が始まるというのが素晴らしい。別に何のキッカケもない。ただ準備が整ったので行動を開始したという冷酷というか得体の知れない火星人の意志を感じる。地球人には理解不能の全く別の知的生命体がいるという恐怖。

この小説が素晴らしいのは、やはりこの時代に火星人が襲来してきたということだろう。日本で言えば、明治30年代に人類を遙かに凌駕する科学力・軍事力を持つ火星人がいきなり攻撃してくるというのがいい。時代劇で大魔神が突然襲ってくるようなもの。情けないくらいに歯が立たないというのは実に怖い。
2本の映画化作品が、いずれも製作当時の時代に作品の時代を設定しているのは、やはりマズイ。これはやはり原作通りの時代設定にしないといけない。そうでないと別の作品になってしまう。
この時代、交通機関として列車が走り、自転車も流行してはいるが、まだまだ道路では馬車が大手を振って走っているというのが面白い。随分、現代に近くはなっているのだが、まだ近代の名残りがあるというのが絶妙にいい。軍隊の装備も大砲が主だから。飛行機なんてないし、ミサイルもない。そんな非力な軍隊が、火星人の高熱ビームと毒ガス攻撃によって全滅するところは興奮する。

恐らくウェルズは笑わせようとは思っていないのだろうが、火星人の円筒ロケットから一晩中、ハンマーを叩く音が聞こえてきたというくだりで、思わず笑い転げてしまった。おそらく、機械の不具合か何かをハンマーで修理しているのだろうが、火星人が触手にハンマー持ってトンカンやっているのを想像すると可笑しくておかしくて。
こういうところでは、火星人の科学力、大したことない気がする。

先に書いたようにこの小説は主人公の一人称で構成されている。軍人でも科学者でもない普通の男(文筆業だから書く能力はある)男が、自分の体験したことを元に書いているわけだから、やはり描ける範囲は限られている。特に彼の場合、ロンドン郊外を火星人から逃げ回っているだけだから、大局的な見地というのはサッパリ分からない。その辺は後で分かったこととして補足したりしているが、さすがに持たないとウェルズは思ったのか、それまで全然出て来なかった主人公の弟の体験談も付け加えている。弟はロンドン在住なので、これでロンドンが火星人に襲われてどうなったか書けるわけだ。いささか苦肉の策みたいな感じもするが、個々はずっとスケール感が出ていい。大惨事のロンドンを逃れて、港から船で外国に脱出するまでのシークエンスはそのまま映画に出来そうな派手なシーンの連続。

まあ、一人称の良さというのもあるわけで、それは、「わたし」が心ならずも狭い場所に閉じ込められ、行きずりの牧師補と一緒に生活しなければならなくなるくだりなどで発揮される。この牧師補が嫌な奴でことごとく「わたし」の足を引っ張る。こういう極限状況下での人間同士の軋轢なんていうのは、近年のゾンビ映画でお馴染みのものだが、既にこの小説でやっていたのだ。この点でも後世への影響大である。ウェルズ、偉い。

驚いたのは、火星人による地球侵略の目的が、単に破壊と殺戮にあるのではなく、実は地球人を食料にするためだったこと。いやあ、忘れていたなあ。
おっと、正確に言うと火星人は所謂消化器官というものがないので、地球人の肉を食べるわけではなく地球人の血を吸い取る、そういう意味での食料なのである。「わたし」が実際に火星人の吸血行為を目撃するくだりはホラーテイストあり。この辺も後世への影響大。『スペース・バンパイヤ』の元ネタか。
一番怖くて面白いのは、火星人の乗って来た円筒ロケットに地球人に良く似た生物の死体が数体あったというくだり。火星人は地球への旅の備蓄食料として積み込んでいたのだ。いわば、旅のお供のお弁当だろうか。このブラックユーモア、最高。

あと、登場人物で非常に興味深いのは、一人の兵士。彼は前半で主人公と出会う人物で、火星人との戦闘で壊滅状態になった軍隊の数少ない生き残り。ここだけの出番かと思いきや、クライマックスで再び主人公と遭遇する。その時に彼が言うことが面白い。彼は当然ながら火星人の恐ろしさを身に染みているわけだが、それでもこれからの火星人占領下の地球を自分は生き延びられると信じている。火星人の食用になる人間とは別に組織を作り、火星人の眼を逃れて社会を作ると彼は言う。さすがに地球人の科学力・軍事力では火星人に歯が立たないことを熟知しているので、それはしないで、ゲリラ的行動で火星人の攻撃マシーンを奪取し、それを使って火星人をやっつけることを夢見る。どう考えても希望的観測、いや妄想だろう。でもこういう妄想を抱く人間を登場させるというのはさすがウェルズである。核戦争で人類がほとんど死に絶えた世界で何とかうまく立ち回ってやる、みたいなタイプの人間の最初の一人だろう。

非常に有名なラスト、呆気ないとか唐突とか云う意見もあるようだが、やっぱりこれは素晴らしいラストである。それまで、破壊と殺戮のスペクタクルを展開してきて大いに盛り上げながら、クライマックスからラストに掛けては、敢えて盛り上げることはしなくて、アッサリ決着をつけるというやり方がイイ。火星人に対して科学力・軍事力では勝てないのだからこういうラストになるのは今から見ると当然だが、この時代にこのラストを考えたウェルズはさすがである。



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