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zoom RSS 四方田犬彦『署名はカリガリ 大正時代の映画と前衛主義』を読む

<<   作成日時 : 2017/07/01 15:44   >>

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映画評論集『署名はカリガリ 大正時代の映画と前衛主義』四方田犬彦著 新潮社 2016年11月30日発行
2017年6月27日(火)読了

(注意!)ネタバレあり。

大正時代、映画(当時は活動写真と呼ばれた)という表現ジャンルに魅せられ、なおかつ現状の映画に不満を抱いた4人の男が果敢に映画に挑んだ、その経緯と成果を描いた本である。映画のみならず、文学についてもいろいろ教えてくれ、タメになって面白い本だ。

この本のキーポイントになるのは、書名にもあるようにカリガリ、そうドイツ映画『カリガリ博士』(1919年)である。この表現主義と言われる無声映画が如何に日本の文学者や映画関係者に強烈なインパクトを与えたかが、この本からも十分窺える。ありきたりな大衆娯楽映画ではなく、芸術としての映画が成立することの驚きは、いま、『カリガリ博士』を見ても当時の人と同じようには感じないが、確かにそれはあったのだろう。

この本は、3部構成になっていて、一番最初は、
「谷崎潤一郎 1918」
と題して、この文学者の映画への傾倒を描いていく。非常に興味深い内容だが、さらに著者四方田犬彦が体験したまるで映画のようなエピソードまで披露されている。彼はあるきっかけで、谷崎の小説『痴人の愛』のナオミのモデルと目される女性と出会うことになる。
その女性、小林せいは、谷崎の肝いりで『アマチュア倶楽部』(1920年)に女優・葉山三千子として出演している。四方田犬彦によれば、日本映画で一番最初に水着になった女優とのこと。彼が、彼女に会ったのは最晩年のことだが、このくだりがやっぱりゴシップ的にも文学的にも面白い。寡聞にしてぼくは、『痴人の愛』のモデルの女性が映画女優になったことを知らなかった。もっとも、女優生活は数年間だったらしいが。
そこで、この『アマチュア倶楽部』(谷崎の製作・原作・脚本)という映画のことをもっと知りたい気になるのだが、いかんせんフィルムが現存していない。当然ながら四方田犬彦も見ていない。そこが、古い映画について書くことのネックになる。そこで、この本では別のアプローチをする。
谷崎の映画観を如実に表わした『人面疽』(1918年)という小説を取り上げて、谷崎の先駆性を称揚する。この小説は確かに面白いし、筋を読むと、『リング』などのジャパニーズ・ホラーの先達だと思う。ただ、この小説を如何に褒めあげて如何に巧妙に解釈しても映画から離れて行くばかり、という気がする。その辺がどうにも隔靴掻痒の感が否めない。

次は「大泉黒石と溝口健二 1923」
ここでは、溝口健二監督・脚本、大泉黒石原作の『血と霊』(1923年)を取り上げられている。この作品もまた現存していない。四方田犬彦は言う、「日本映画研究とは何と呪われた分野であることか!近代文学であるならばいかにマイナーな作家であろうと、探索さえ地道に続けるならその全作品を読むことが不可能ではないというのに、こと映画に関してはそれが絶望的なのだ。」
ここでもまたその絶望的な状況でなんとか、映画『血と霊』に迫ろうと、原作を読み、映画撮影の際のスチール写真を並べてみせる。その涙ぐましい努力にこちらまで泣けてくる。で、結局分かるのは、『カリガリ博士』の表現主義を真似たが力足らずの失敗作ということなのが、なお悲しみを誘う。
ただ、大泉黒石という今では忘れられた作家について少しでも知ることができたのは良かったと思う。大泉黒石の作品は短篇を一つ読んだきりで、また彼の息子が、大泉滉という非常にユニークな俳優だったこと、くらいしか知らなかったので。

「衣笠貞之助 1926」
ここで取り上げられるのは、衣笠貞之助監督 川端康成脚本の映画『狂つた一頁』(1926年)である。この映画は、フィルムが現存しているので、著者が心置きなく評論できる。凄く当たり前だけど、映画評論は自分の眼で観て、自分で考えて、自分で書かなければダメなんだな。著者のここまでの悪戦苦闘はどこへやら、水を得た魚のように自由奔放にこの作品について熱く語り、解釈し、評価している。
恥ずかしながら、この映画を観たことがないので、著者の見解に賛否を述べることはできないが、この評論を読んでこの映画が非常に観たくなったのは事実。
この映画も『カリガリ博士』の影響をモロに受けたところから出発して、結果的に『カリガリ博士』を越える地点まで到達したらしい。素晴らしい。


署名はカリガリ: 大正時代の映画と前衛主義
新潮社
四方田 犬彦

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