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zoom RSS 『最後の秘境東京藝大 天才たちのカオスな日常』

<<   作成日時 : 2017/05/08 07:11   >>

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ノンフィクション『最後の秘境東京藝大 天才たちのカオスな日常』二宮敦人著 新潮社 2016年9月15日発行 2016年11月15日8刷
2017年5月7日(日)読了

(注意!)ネタバレあり

去年9月に発行され、ベストセラーになっている本。ぼくは、どうもベストセラーとかには手を伸ばしにくい性格なのだが、ちょっと興味を惹かれる内容なので買って読んでみた。
著者は、藝大生である女性と結婚し、彼女の日頃の突飛な行動(体に半紙を貼って型を取るなど)から藝大というものに興味を抱いた。そこからこのノンフィクションが生まれた。
ノンフィクションといっても、膨大な資料を当たって、詳細に藝大の歴史や現状を書いていくというものではない。メインは、現役の藝大生たちへのインタビューで構成されている。堅苦しい講釈抜きで若者たちのナマの声を拾って紹介しているのでとても読みやすく面白い。

藝大は、美術学部=美校と音楽学部=音校と分かれている(知らなかった!)。この二つの学部の違いが面白い。学生の服装からして、美校はジャージなどラフな格好なのに比べ、音校はカジュアルなジャケットやスーツが目立つ。制作現場でモノを作り出す美術と閉ざされた空間で音を紡ぎ出す音楽の違いか。

「音楽は一過性の芸術だからね。つまり、その場かぎりの一発勝負なのよ。作品がずっと残る美校とは、ちょっと意識が違うかもしれない。あと、音楽って競争なの。演奏会に出る、イコール、順位がつけられるということ。音校は順位を競うのが当たり前というか、前提になっている世界なんだね」(音校楽理科卒業生の言葉)

この本は、美校、音校それぞれの学生に話を聞き、その違いをさらに際立たせていく。そこが上手い。これが例えば、美術学部だけの大学の話だったら、単調に感じてしまうかもしれないが、両方を交互に描いて行くことによって変化が附き、バラエティー豊かに思える。
美校、音校のうち、美校のほうが昔ながらの芸術家タイプが多いように思える。謎のブラジャー・ウーマンとか、ぼくが思い抱く変人芸術家像に合致している。ただ、それでも読む前に想像したほどには全体的に奇人変人度は高くない。タイトルに「最後の秘境」とか「天才たち」とかいかにもな煽り文字が入っているが、実際読んでみると、みんな一途で真面目。むしろ真面目に芸術に取り組みすぎて、普通の人から逸脱している感じ。
いかに自由奔放で緩い美校といえども、酒飲んで、気まぐれに制作するような奴はいない(というか、そういう奴はこの本に出してもらえない)。みんな美術を愛している。そこが眩しい。

音校の方は美校と非常に対称的。学内のセキュリティーも美校よりはるかに厳しい(高価な楽器の盗難防止のため)。学生の様子もだいぶ違う。そもそも藝大音校に入るような学生は、子どもの頃、2、3歳くらいから音楽の英才教育を受けてきたような人が多い。コンクールやコンサートの経験もある。いわばエリートの中のエリートの集まり。秩序立って折り目正しく真摯に音楽に向き合っている感じが伝わってくる。ただ、そんななかでも「口笛」演奏に非常な熱意を持って取り組む人がいたりするのが面白い。伝統的音楽を追求する人々に中にあって、自分で新たな伝統になろうとする試み。それは、ボーカロイドと三味線を組み合わせてみせる女学生にも通じる。
それぞれの楽器を演奏する人が、楽器に影響され、性格が似てくるというの面白い。昔観たフェデリコ・フェリーニの『オーケストラ・リハーサル』を思い出した。オーケストラのなかの人たちが、自分の担当する楽器への愛を語り、人生を語り、音楽を語るシーンがこの本にダブってくる。

藝大生の奇人変人ぶりを面白おかしく描いた本なのかな、という読む前の想像を覆し、真剣に芸術に向き合う若者を正面からとらえて真面目に書いている。多少、ユーモアを交えているところもあるが、揶揄、皮肉、批判じみたところがまるでなく、読んでいて気持ちいい。何よりも著者の学生たちに対する姿勢が実に優しい。そこがいい。






最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常
新潮社
二宮 敦人

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