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zoom RSS 『そして誰もいなくなった』&『そして誰もいなくなった』 芸術としての殺人

<<   作成日時 : 2017/04/01 16:02   >>

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『そして誰もいなくなった』

(注意!)ネタバレあり。日本製ドラマ版の感想を中心に原作小説にも言及していく。

ドラマの冒頭、「孤島で10人の男女の殺害された遺体が発見された」旨のナレーションが入り、警察の捜査関係者が島に向かう様子が描かれる。まずここで、「いかんなあ」と思ってしまった。何故、ドラマの初っ端から自らネタバレやるかなあ。しかも10人全員死亡という重大なオチをアッサリと。視聴者にインパクトを与えたかったのだろうが、明らかな失敗だと思う。当然ながら原作の冒頭にはこんなシーンはない。
シドニー・ルメット監督の『オリエント急行殺人事件』の冒頭で誘拐事件の映像を流してネタバレしたのを思い出した。いずれもミステリのセンスがないとしか言いようがない。
警察のシーンは、ほんの最初だけですぐ回想シーンで本筋が始まる。だったら、いきなりこっちからやるべきだったな。

いきなりゲンナリしたが、それ以降のストーリー展開で気を取り直す。意外に原作に忠実に作ってあるのが好印象だ。むしろ、招待状のくだりみたいに原作よりも無理なく上手く作っている部分もある。
勿論、イギリスの話を日本の話に作り変えて、しかも現代に時代を置き換えているので、そういう点での無理は随所に見られる。スマホ、タブレット、ドローンなどを出して敢えて現代を強調している様でもある。
まあ、その辺は御愛嬌ということで。

ちょっと感心したのは、「小さな兵隊さんの唄」という数え歌を最初から最後まできちんと仲間由紀恵らに朗読させてみせたこと。この辺をおざなりにしていないのは良いこと。可愛らしさと不気味さがブレンドされた歌であり、非常に雰囲気が盛り上がる。
そのあと、一同が食堂に集まった時に真犯人の「死刑宣告」があるが、ここも原作通りにあえて蓄音機でレコードで聴かせるというやり方が上手い。変に現代風に改変しないで古風にしたのが大正解。
で、そこから始まるのは、いつの世でも通用する殺す者と殺される者の殺人ゲーム。ここには、現代とかは関係ない。

ドラマ的には、随分豪華キャストを集めたという印象だが、いかんせん中高年の俳優が多い。比較的若くてイケメンなのは向井理のみ。普通だと彼を最後の方まで生き延びさせて、ヒロインの仲間由紀恵とのシーンを多くするところだが、いの一番に彼は殺されてしまう。しかも、グラスの酒を飲んで咳き込んで倒れてオシマイという呆気ない死に方。これには感動した。変なスターシステムに依らず、視聴者が一番好感を抱きそうなイケメンを真先に始末するという姿勢は素晴らしい。スタッフの大英断とそれを引き受けた向井理の俳優魂に拍手。
ミステリ的にみると、何人もの人が居る中で彼のグラスに誰が毒を入れたかが注目に値するのだが、その辺は言及されず。まあ、原作でも真犯人が「レコードがかけられたあとの騒ぎの間に」「そっと入れる」と書いてあるだけで、別にトリックがあるわけでもない。謎解きものとしては、原作もドラマも結構雑というか、そんなに工夫があるとは言えない。
もう一つ謎解きと言えば、ドラマの中で真犯人が自殺を殺人に見せかけるために案出した昆布とレンガとネズミのトリックがネット上では随分失笑を買ってしまったようである。まあ、あんまり弁護の余地もないような噴飯もののシーンだが、ああいう一見バカバカしいリアリティーにないトリックもミステリーの一つの醍醐味とは言える。活字では何とか誤魔化せても映像になるとこうもショボくなるのは残念だが、まあそんなものだ。
もっとも、原作にはさすがに昆布とレンガとネズミは出て来ない。元ネタは、ゴム紐とドアノブとメガネだ。これも読んでいると尤もらしいが、ちゃんと映像化するとどうかしら。それにしてもクリスティー、こういう物理的トリックってあまりやらない筈なのにこれはどうしたことか、ジョン・ディクスン・カー張りではないか。パロディのつもりだろうか。

ドラマ的は、人が次々に殺されていくのは実に爽快感があって面白いのだが、原作にあった疑心暗鬼に陥る人々の内面描写とかはさすがに映像では再現できなかったようだ。ドラマだと何だか段取り通りに人があっさりと殺され続けて行く感じで今一つ盛り上がりに欠ける。原作では、行方不明になったピストルを捜すために生きている者の身体検査をやることになって若い女性(ドラマでは仲間由紀恵が演じた役)まで水着に着替えさせて調べたりするシーンが感動的だったが、ドラマではカット。仲間由紀恵の水着姿見たかった。


10人全員が遺体で発見され、警察の捜査が行われるシークエンスは本当にやめてほしかった。ヒッチコックじゃないけれど、「警察が出てくると別な話になる」のは確かだ。しかも沢村一樹演じる敏腕刑事(で、奇矯な変人)に花を持たせるためか、他の警察関係者を無能に描きすぎるのが腹立たしい。くだんの刑事が指摘するまで誰も隠しカメラの存在に気付かないとはオカシイだろう。鑑識を始めとする人々は何やってたんだ、という話。

そういう不満も大いにありながらも、クライマックスの真犯人の告白映像は凄まじいインパクトであった。基本的には、原作の犯人の告白文を上手く生かしているのだが、単なる文章ではなく、真犯人を演じる渡瀬恒彦の正に迫真の演技のお蔭で原作を遙かに超えたものになっている。
末期癌で余命いくばくもない真犯人を同じく癌で余命いくばくもない渡瀬恒彦が演じるという、現実と虚構がシンクロした恐ろしさ。これが遺作というが、渡瀬恒彦はとんでもない境地に辿り着いたものである。
自らの歪んだ正義感に基づき、人々を殺し、「私の殺人は芸術だ」とのたまう、この狂った男を見るとただただ慄然とするばかり。渡瀬恒彦のこの演技は、長く人々の記憶に残るだろう。






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